2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記第4741話

法然としては常にこの悲惨な時代の苦痛を一身に引き受けているようなこの高貴な手弱女を目も放たず見守って、機会ある毎に適切ななぐさめのことばを与え、それが一々従順に聞かれ喜ばれるおを喜びとして、彼女におのれが念仏の師とも父とも頼まれ仰がれてい…

木魚歳時記第4740話

または一族の法親王がたのところで快活に法を談じ、また厳格に経を論じているのを見かけ、やがては一代の上人となって人々に仰がれた老法師、法然であったろうなどときめてかかってはいない。 ただあの手紙の宛名の人が式子内親王であることから、「生きてよ…

木魚歳時記第4739話

わが恋は知る人もなしせく床の涙もらすなつげのを枕 忘れてはうちなげかるる夕べかなわれのみ知りて過ぐる月日を 内新王が誓って深く胸に秘めた我のみ知って年久しくその切ない心を告げなかった恋慕の主を、わたくしはこの十八の少女の日、斎院を退下した数…

木魚歳時記第4738話

色々の花も紅葉もさもあらばあれ冬の夜深き松風の音 住み馴れむわが世はとこそ思ひしか伏見の暮れの松風の庵 目にあやな種々の花や紅葉を美しいものと喜ばないでもなかったが、それよりも冬心を抱くことのさびしさく悲しい女流歌人の心に共鳴するものは寂莫…

木魚歳時記第4737話

日に千たび心は谷に投げ果ててあるにはあらず過ぐるわが身は 見しことも見ぬ行け末もかりそめの枕に浮かぶまぼろしの内 浮き雲の風にまかする大空の行方も知らぬ果てぞ悲しき 心のなかには今さら嘆いてかいのない悲しみがつぎつぎ湧き起るのをあきらめの谷に…

木魚歳時記第4736話

(五)待つ宵に更け行く鐘の音を聞けば飽かぬ別れの鶏はものかは という小侍従の歌と、玉の緒よ絶えなば絶えね永らえば忍ぶることの弱りもぞするまあ、 ちう式子内親王の一首との対照は穢土の恋と浄土の恋との相実を雄弁に遺憾なく語り尽くしている。(佐藤…

木魚歳時記第4735話

法然は身も心も玲瓏(れいろう)、玉のように穢土(えど)の一形(いちぎょう)を過して、父なき後は父とも師とも彼を頼んだ可憐な一女子の最後を安らかしめ、どうにかして浄土に送って彼岸での再会をこいねがう一所懸命の趣は、この手紙の字句にあふれてて…

木魚歳時記第4734話

法然は自分が御病状を承ったうえは、こう引き籠って申す念仏の一念をもあなたの御往生のために回向し参らせようと念じて差し上げます。法然のこの心ざしが誠心誠意である限り、どうして御往生のたすけにならないわけがありましょうか。たのもしくお思い下さ…

木魚歳時記第4733話

またおもわずさきだてまいらせ候事になるさだめなきにて候とも、ついに一仏浄土にまいりあいまいせ候わんは、うたがいなくおぼえ候、ゆめまぼろしのこの世にていま一度などと、おもい申候事は、もかくても候いなん。これをば一すじにおぼしすてて、いとども…

木魚歳時記第4732話

もしこの心ざしまことならば、いかでかまた御たすけにもならで候べき。たのみおばしめさるべきに候。おおかたは申しいで候いし一ことばに、御心をとどめさせおわします事も、この世一つの事に候じと、先の世もゆかしく、あわににこそおもいしらるる事にて候…

木魚歳時記第4731話

いま一度、法然の手紙を抜き書きしたい・・か様に念仏をひきこもりて申候わんなどとおもい候も、ひとえにわが身一のためとのみはもとよりおもい候わず。おりしもこのおん事かくうけ給わり候いぬれば、いまよりも一念ものこさずことごとくその往生の御たすけ…

木魚歳時記第4730話

研究者の意見によればこの一首は作者の最晩年正治二年以降の作と推定されている。 ある夕、この歌は女房が内新王の病状を報じた手紙と共に、東山吉水(きっすい)僧庵の法然にとどけられたものでなかろうか。(佐藤春夫『極楽から来た』)1367 もういちど兎…

木魚歳時記第4729話

今仮に詠み人自身を客観的に詠んだものと解けば、「この人間(わたくし)の苦しい生涯も多分は明日までつづきますまい。おたずね下さるおつもりがあるなら今夜のうちにおいで下さい」 とこういう意味でもあろう。(佐藤春夫『極楽から来た』)1366 ふらここ…

木魚歳時記第4728話

(四) 生きてよも明日まで人はつらからじこの夕ぐれをとはばとへしか という式子内新王の一首はその調べの流暢哀切にも似ず、一読直ちにその意を汲み取りにくいかも知れない。「人はつらからじ」の一句の「人」が相手を指すとも自己自身を客観的にいうもの…

木魚歳時記第4727話

法然がこの手紙を内親王に差し上げたのは、正治(しょうじ)三年正月に十五日薨去(こうきょ)の御病床へではなかろうか。内親王は前年から病ませて十二月ごろには病勢も進んでいたから、正治二年末から正治三年年頭の事と思われる。房籠りの念仏とはおそら…

木魚歳時記第4726話

み仏の本願に頼り切って疑いなく名号を申し給わば、わが身はいかに罪業深くとも、み仏のお力によって必ず往生するぞと思い取らせて、一筋によくよくお念仏申さねばいけません。 われらが往生は身のよしあしに因るものでなく、ただみ仏のお力ばかりによること…

木魚歳時記第4725話

この世はいくら久しく住し止まっても、しょせんは夢まぼろしの世界。つかの間の事、おなじみ仏の国に生まれて、ともに過去世の事をも語り、また互いに未来の化益(けやく)を助け合いましょうとはじめてお目にかかった時からくれぐれも申し上げて置いたでは…

木魚歳時記第4724話

大炊御門院の女房からであろうか、おん主人内新王の御病気の篤(あつ)い事が報じられたものらしい。内親王に宛てて法然はこの手紙をしたためているのである。 手紙の大意は、ただ事でない御重体とうかがい、思いきめた房籠(ぼうごも)りの念仏をもうち捨て…

木魚歳時記第4723話

返々も本願をとりつめまいらせて、一念もうたがう御心なく、一声も南無阿弥陀仏と申せば、わが身をたとえいかに罪ふかくとも、仏の願力によりて一定(いちじょう)往生するぞとおばしめして、よよとく一すじに念仏を候うべきなり。われが往生はゆめゆめわが…

木魚歳時記第4722話

これをも退してもまいるべきにて候に、また思い候えば、詮じてこの世の見参はとてもかくても候い屍(かばね)を執するまどいにもなり候いぬべし、だれとてもとどまりはずべき身にも候わず。れも人もただおくれさきだつかわりめにてこそ候え、そのたえまを思…

木魚歳時記第4721話

(三)法然房の書翰の一部を引こう・ ただならぬ御事、大事ばかりうけ給わり候わんだにも、いま一度見まいらせたく、あわりまでの御念 の事も、おおぼつかなくこそおもいまいらせ候べきに、まして御心にかけさせつねに御たずね候わん そ、まことあわれにも、…

木魚歳時記第4720話

更に、『明月記』によって式子内親王が当年の上流の人士には珍しく専修念仏者としての心地を晩年に至っていよいよ堅持されていたことも明瞭になり、後白河法皇と法然上人との関係や、後白河法皇が式子内親王を特別に愛し給うて、そのため式子内親王の精神生…

木魚歳時記第4719話 

上人の残された消息文の一つに『正如房につかはす御文』という長文のものがあるが、最近までその書翰の宛人は明らかでなかったが、式子内親王の法号、聖如房とこの不明の長文消息の宛名正如房とがその音が全く同一でであるため、この消息文は法然上人が式子…

木魚歳時記第4718話 

式子内親王を藤原定家が慕い参らせたか、そのおん墓には定家がかずらがまつわりからんでいるという伝説も世に知られているが、我々の法然上人に、この高貴な天才女流に宛てられたかつ推定される長文の書翰(しょかん)が残っていることを知る人は少ないであ…

木魚歳時記第4717話 

斎院退下の後は三宮に准(じゅん)ぜられて、生涯ご独身で通されたが、保元の乱にはおん伯父君崇徳上皇を讃岐に送って生別あらせ、ご同母のおん兄似仁王は平氏打倒の第一陣に失わせられ、おん父は平氏との有折衝に御多端なおん立場にあらせるのを常に見守ら…

木魚歳時記第4716話 

平治元(1159)年十月二十五日から嘉応元(1165)年七月二十六日まで十一年間、斎院をなされ、十歳に足らぬ童女のころからの奉仕を十八歳で病気のため退下された。その時、壮年の法然がおん父御白河院のお招きを受けた師叡空のに代って授戒のことは…

木魚歳時記第4715話 

式子内親王は、後白河天皇の第三皇女として、権大納言藤原季成(すえなり)の女従三位成子(しげこ)をおん母としてお生まれになった。母方の一統に歌人が多いから、そのたぐい稀な詩魂は御両親から享けさせたものであろう。(佐藤春夫『極楽から来た』)135…

木魚歳時記第4714話 

斎宮の古は知らず、斎宮のそれも我々がここで見て来た時代に就いていえば、待賢門院をおん母とし崇徳、後白河、のおん姉、覚快法親王のおん妹、上西門院怐子(後改め統子)が大治(たいじ)三年以後四、五年間斎院であらせ、つぎに後三条天皇の皇子輔仁のみ…

木魚歳時記第4713話 

(二)智子内親王は貞潔なおん資質とゆたかな学芸とを以て斎院に好もしい伝統を残し、おき範を示されたが、古来の斎宮には『伊勢物語』のむかし男と斎宮の作り話のような神のいさめぬ人間の情事の発生したような例も稀には無いようでもなかtったようである…

木魚歳時記第4712話 

天皇は深く嘆賞し給い喜して位三品と文人を召す料として封百戸を賜うた。内親王、時におん年十七歳であらせた。 修道院にも似た斎院はこの初代によってまた一種学芸の府のような伝統をも開くに至った。また有智子内親王は法然の授戒を受けさせたこともあった…