2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記第4107話

そこで上皇は使者を黒谷の青龍寺に送って、法然を仙洞に召した。召された法然は前にお召しのあった時のお話のつづききから上皇が今度のお召しの御意を拝察して『往生要集』を用意して出かけた。(佐藤春夫『極楽から来た』)773 紙パンツつけてあげたい雪坊…

木魚歳時記第4106話

法然を見たいばかりではない。口称念仏(くしょうねんぶつ)だけで往生できると説く彼の意見を少しくわしく知りたいのであった。歌謡で成仏できるとしている上皇自身のお考えであったから。(佐藤春夫『極楽から来た』)772 夜咄のウソ八百や破戒僧 「ボクの…

木魚歳時記第4105話

(三)後白河院は人なっこく、ほれっぽい性格のお方で、人が好きになりはじめると見さかいもなく相手に熱中した。一たび法然の温容に接して、もう一度彼を見たいと思し召された。(佐藤春夫『極楽から来た』)771 温かい「おひつ」のごはん雪催 雪催(ゆきも…

木魚歳時記第4104話

一度法然に会って以来、上皇は法然を仙洞に召して経文を講じさせたり、後にはおん愛子たる高倉天皇の御戒師を命じたりもなされたものである。 わが身が解脱の道ををさえ見い出せない法然にとっては上皇の知遇も重荷であった。(佐藤春夫『極楽から来た』)77…

木魚歳時記第4103話

この点は後白川上皇が歌謡に熱中して、「声を破ること三度、二度はかたの如く歌い交わして声の出るまで歌い出し、あまりの無理をしたため、のどがはれて湯水も通らなくなtったのを、用心しながらも歌いつづけて五十日百日の歌修行をはたし、千日の歌まで歌…

木魚歳時記第4102話

さもあろう、今までわれわれが見てきた彼の生活ぶりでも知れるとおり、法然房は念には念を入れ、修行でも読書でも思索でも徹底的に遂行せずにはおかぬ性質の人なのである。(佐藤春夫『極楽から来た』)769 凍鶴をまた見に来たらもう居ない 「ボクの細道]好…

木魚歳時記第4101話

源空の法華三昧の半行半坐三昧では、『法華経』にあるとおりに普賢(ふげん)菩薩が六牙の白象に乗ってお姿を現したとか、彼が『華厳経』披見の机上には龍王の権化(ごんげ)の小蛇のわだかまっているのを見た、などと同輩が彼の修法の修行に熱中していた様…

木魚歳時記第4100話

それとて素質に合っているならよかろうが、素質に合わないらしいわが身がそれに打ち込んでいることに、果たして意義があるのであろうか。 彼はいつもそんことを考える。それでいて、聖道門をなかなか捨て切れないで、修法には人並以上に熱心であった。彼は何…

木魚歳時記第4099話

原来、本当の智慧というものは正覚者、仏よりほかには持たないはずのものではなかった。それをまだ正覚に達しないわれら修行者たち、人間たちが、人間の猿智慧の猿真似で追及しようとしているのが聖道門の修法なのではあるまいか。(佐藤春夫『極楽から来た…

木魚歳時記第4098話

智力を操作して正覚(しょうがく)を得ようとする聖道門(しょうどうもん)のあり方に対する疑いは、不思議とその修法を修行するに従ってますます深まる。思うにわが身によくよく智的でない人間にできているのであろうか。そうしてそのために聖道門はわが素…

木魚歳時記第4097話

平素、心のなかに蓄積されていたあらゆる生活が、必要に応じて、忽然(こつぜん)と閃光(せんこう)を発する瞬間が直覚力の火花である。これは思索や反省のように人間のさかしらで無理に静止させた生活ではない。運動する生命力のおのずからの発露である。…

木魚歳時記第4096話

(二)人智をむやみと尊重する人間は、思索とか反省とかいうものを無上に有りがたいものと思う結果でもあろうか、とかく直覚を危っかしいものと思っている。これは人々ばかりではなく、余人ならぬこの源空自身とて同じであるが、直覚は果たしてそう無価値な…

木魚歳時記第4095話

声を媒介とする往生の法を説くのを、かねて歌菩薩をご本尊とする上皇はご同感あったが、それは彼岸(ひがん)のこと、わが歌謡こそ現世成仏と思し召した。 おん父上皇のかげには、松の傍らの梅花のように清らかにやせた二十ばかりの内裏王がつつましやかにひ…

木魚歳時記第4094話

「こちに近く」 と仰せられたがあまりの勿体なさに法然が敢えて進まないのをご覧あって、「ではこちらで下りる、人君の故をもって法の師を見下すはわが志ではない」 と仰せられたので法然はおそるおそる玉座に近づき、型の如く授戒の式をすすめて、説戒に当…

木魚歳時記第4094話

法然房はしぶしぶ、いや、こわごわで参院した。しかし四十四、五歳の世慣れた上皇は、ごくお気軽に法然にお対しあらせ、まず叡空の微恙(びよう)を問い、さて、「そちのことは慈眼房からも九条大相国からも聞いていた。よく参った。一度会ってみたいと思っ…

木魚歳時記第4093話

「それは存じて居ります。ですが資格が」「資格はわしが与える。わしの代理で行け。考えがある。わしが命じる」「お師匠さまがお命じとならば、ご辞退のすべはございません」(佐藤春夫『極楽から来た』)760 病室の空念仏や春の昼 空(から) 「ボクの細道…

木魚歳時記第4092話

「それでわたくしがお師匠さまに代って戒師というわけですか」と法然房は愕然(がくぜん)として、「お師匠さま、それは困ります。わたくしには勤まりませぬ」「そなた戒を受けた時の順序や方式はまだおぼえて居ろう。わけのないこと。それをそなたがやれば…

木魚歳時記第4091話

「院に病を持ちこんではならぬ。そなた代わりに参ってくれ」「何のためですか」「実は式子内親皇が今度ご病気で斎院(さいいん)をさがられたについて、ご落飾あそばす。それでわしに授戒に来いと仰せ出された」(佐藤春夫『極楽から来た』)758 こんな夜は…

木魚歳時記第4090話

嘉応(かおう)元年法然三十七歳の一日、師匠叡空が彼に意外な事をいい出した。「源空そなた迷惑でもあろうが、ちょっと院まで参じてはくれまいか。実はわしが招かれたが、知ってのとりわしは貴人の前は大きらいさ。礼法(れいほう)を心得ないからの。そこ…

木魚歳時記第4089話

彼は先ず学問(先哲の智力)によってわが信念を証明し客観化しようと空しく努力した。法然の修法との対決はいよいよ深められて行く。修法にも独善の陥穽(かんせい)が秘められているのを法然はやがて気づかずには置かない。(佐藤春夫『極楽から来た』)756…

木魚歳時記第4088話

彼はその結論なら少しも疑わない。ただ直覚でこれを得たという点をやや危ぶむ。しかし弥陀の大慈悲も極楽も十分に信じている。疑うこころはわが智力、否(いな)すべての人間の智力、それを無限に信頼する人間の性情にある。(佐藤春夫『極楽から来た』)755…

木魚歳時記第4087話

第十七章 見果てぬ聖夢(一)法然は日々礼讃(らいさん)をつづけ、法華三昧は既に成じて、今は五相成身観(ごそうじょうしんかん・現身のまま現世で大日如来になるという観法を修行しつつも、欲は口称念仏(くしょうねんぶつ)の行が他にすぐれていることを…

木魚歳時記第4086話

この慈悲に浴した歓喜と感謝とを、先ず十方の衆生に味あわせたい。我々すべては力及ばぬ難行苦行を積まずとも、この慈悲にすがりさえすれば最上の仏国に生きられるのだ。この感謝と歓喜との基礎上に、凡夫(ぼんぷ)の我々すべてが最上最美の仏国に生まれる…

木魚歳時記第4085話

「世にも稀有(けう)な最大級の罪の罪のほかはわが名を呼ぶ限りこれを赦(ゆる)してわが最善最美の国の住民たらしめたい。わがこの願望がかなわない程ならば、覚者(仏)などにはなりたくもない」というこの広大無辺の慈悲を感じ取った喜びはまことに神来…

木魚歳時記第4084話 

という阿弥陀仏四十八願の文が遠雷のように心にとどろいて出た。かねがね暗誦している文句がすぐに思い出されるのに不思議はないが、それと同時に法然は、さながら電光に打たれでもしたように、いつもとは全く違った感謝の念に打たれた。さながらに、阿弥陀…

木魚歳時記第4083話 

「ああ極楽の大地のような」 と、ひとり言した瞬間、 モシワレ仏ヲ得タランニ十方(じっぽうの)ノ衆生至心(真実心をこめて)ニ信楽(しんぎょう)シテ我ガ国ニ生(しょう)ゼント欲シテ乃至十年(十声の念仏称名)センニ、モシ生ゼズンバ正覚(しょうがく…

木魚歳時記第4082話 

水のせせらぎが耳に快く目ざめた一日、法然はいつもの道を変えて北に向い、横川中堂から大宮の流れにそうて日吉大社から坂本を目指した。いつもより一時間あまり早く起きたので、美しく晴れ渡った空に誘われて、遠行を企てたのであった。 途中、何ごころなく…

木魚歳時記第4081話 

門を出るに当たっては、必ず、保元の乱の後、為義が、斬られる前日一夜をこの門前にたたずみ明かしたと聞いたうわさが思い浮かんで心を痛めるのであった。(佐藤春夫『極楽から来た』)748 相棒の直す化粧に淑気かな 「ボクの細道]好きな俳句(1827) 稲畑…

木魚歳時記第4080話

自然は時々刻々の変化のために同じ道も常に目新しいと思いながらも、あまりに曲がりもない杉の下かげの道ばかりに、変化を求めて日によっては、四明岳や大比叡を踏破してみることがあった。健脚を急がして一時間、歩をゆるめて一時間半ばかりの散歩なのであ…

木魚歳時記第4079話

しかし美作の山中に生まれて山中に育った法然にとっては、自然もまたよき師友である。それ故、彼は朝夕、看経(かんきん)の前後の小閑(しょうかん)をぬすんでよく散歩した。彼は青龍寺を出て、南に向う門前の道を、釈迦堂、浄土院の伝教廟(でんきょうび…