2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記第4682話

義経が窮鳥となって奥州藤原氏をたよったのは、もとの安全な古巣に帰ったものとして極く自然の成り行きである。しかしこの他意のない落ち着きどころさえ、疑い深い頼朝とっては恕(ゆるし)難いものであった。 頼朝は奥州藤原氏の強力をおそれて常に背後を衝…

木魚歳時記第4681話

後白河法皇は、頼朝と義経の不和の原因、義経が遂に兄の謀反人となった真相を知悉しそれについ就いての責任を感じたがために最後まで義経を保護あそばされたわけであるが。院は御体験によって頼朝兄弟の争いをやめさせたいとお思い遊ばされたのである。 しか…

木魚歳時記第4680話

義経が喜んでこの任に就いた時、法皇は定めし、これで鎌倉の大勢力を政治と軍事のとの二つにきっぱりと二分し得たとほくそ笑ませたことと思う。それだけに頼朝のにがにがしさは言語道断のものがあり、頼朝の目には義経は単に憐れむべき愚弟であなく、施し難…

木魚歳時記第4679話

義経は兄の志は知らなかった。しかし後白河法皇は夙(つと)に頼朝の野望は察知していたから、将来、朝廷の大敵となる鎌倉方の有力な大将軍義経を検非違使という大任であらかじめ買収して置いたのであった。(佐藤春夫『極楽から来た』)1316 小春日の浮気の…

木魚歳時記第4678話

わが幕府から有能な人材を朝廷に抜き去られるのを怖れたからである。義経は兄にそれほどの大志があっての思慮とは思いも及ばず、検非違使という重任に眩目(げんもく)して、うかうかと朝廷の任官を受けた。頼朝にとっては命令に服しない家臣として、また兄…

木魚歳時記第4677話

頼朝は、最初から朝廷に対抗して幕府を開く意志をもっていたと思われる。さればこそその家臣にすべてに向かって、勝手に朝廷の任官叙勲に預かることを禁じていたのである。(佐藤春夫『極楽から来た』)1314 もう少しうとうとするか今朝の雪 「ボクの細道]…

木魚歳時記第4676話

そのうえ義経は頼朝の異母弟とはいえ、頼朝の部将なのである。それが家臣の分もかえりみず、頼朝の請奏(しょうそう)をも待たずに法皇から検非違使(けびいし)の重任を授けられて、これを受けた。それが頼朝の怒りを買ったのは、むしろ当然と思われる節も…

木魚歳時記第4675話

とはいえ、これには弁護の余地は十分にある。頼朝と義経とは兄弟とはいえ異母の兄弟であり、当時の習慣としてそれぞれに母の膝下に育てられ、やや長じても義経は奥州藤原氏に身を寄せていたから、互いに父頼朝の血をうけているとはいえ、全く他人のように育…

木魚歳時記第4674話

(二)頼朝の義経に対する処置は、その当時から今日にまで多くの人々にとって頼朝という人物に対する嫌悪の情を催させる有力な材料になっている。(佐藤春夫『極楽から来た』)1311 悪漢につきまとひたる雪婆 雪婆(ゆきばんば)= 綿虫 「ボクの細道]好き…

木魚歳時記第4673話

それにしても陳和卿は、頼朝の正体を見抜いて、この英雄が地獄から来た人であったのをあったのを知っていたかのように思い切って本当の事をいい放ち、そのうえ、その好意まで拒むような剛直な態度に出たのは、単に優秀な工人というばかりでなく、さすがに重…

木魚歳時記第4672話

陳和卿は人相をよく見る人であったか、それとも義経に対する頼朝の仕打ちについての世評(当時義経にに対する世上の同情は衣川の戦死以来また一段と昂(たか)まっていたから)でも耳にしていたものか、それとも異邦人で他国の権威におそれず、まtいつでも…

木魚歳時記第4671話

頼朝はこの直言に感激の涙を抑えつつ、奥州征伐の時つけた甲冑に鞍馬三頭、それに金銀をそえて贈ったが、和卿は甲冑は造営の釘料として東大寺に施入し、鞍も一つだけは、東大寺のために寄進したが、名馬以下の品々はすべて返却した。 (佐藤春夫『極楽から来…

木魚歳時記第4670話

寿永(じゅえい)三年三月十二日の供養のため、鎌倉から来た頼朝が大仏殿に参詣した時、修復の成った廬舎那仏(るしゃなぶつ)を拝し、陳和卿の技術の巧妙なのに感心して、これに結縁したいと望み重源を通じて引見しようとすると、和卿は、「この人は国敵退…

木魚歳時記第4669話

閏七月八日にも光の現れたのを見た者があり、十五日にも二十一日にも両眼よりやや低く、眉間あたりに光明があって、蛍でもそんなに高く飛んでいるのではないかと思われるようであった。 こういう奇瑞は修復の成った喜びと人々の信仰とによって、はじめこれを…

木魚歳時記第4668話

どこか高いところに燈籠でもあって、その光が射すのであるまいかと、あたりを見まわしたが何もない。さては、わが目のせいなのかと疑っているところへ、これも夜道をいとわず修復のお姿を拝みに西院の勝恵が、「あのお光が見えるか」 と問いかけた。お互いあ…

木魚歳時記第4667話

改鋳は四月十九日からはじめて、五月二十五日に至る三十日あまりを費し、十四回の冶鋳を重ねてどうやらやっと成功の糸口を見つけ、七月中ごろにはおぼ完成の姿を見せて、その後は時々大仏が光を放つことがあったと伝えられる。 六月十六日の日の暮れ、折から…

木魚歳時記第4666話

第二十八章 地獄から来た(一)宋人の陳和卿(ちんわけい)は、法然の推挙により法然に代って、大仏殿の大勧進となった重源上人が大仏殿修復に当たって、その人物と技術とを見込んでわざわざ大陸から連れて来た工人で、大仏の頭部の改鋳もこの人の苦心によっ…

木魚歳時記第4665話

「お喜びを拝し法然も同じ喜びを覚えます。仏もお喜びを同じくされたに相違ありません。極楽でめぐり会う喜びもかくやとばかり」と二人の喜びは二人の瞳を涙で包んだ。(佐藤春夫『極楽から来た』)1303 着ぶくれて石につまずく大僧正 「ボクの細道]好きな…

木魚歳時記第4664話

この書の稿本を受け取った兼実は、「最初、念仏をさとすの説き起こしから、わたくしへの終わりのお戒めのお言葉まで、再四拝読して至らざるなき御教訓、骨身に徹して総身に極まりなきよろこびを覚えました。二河白道(にがびゃくどう)の善導のお言葉を親し…

木魚歳時記第4663話

恰もこの前々年、東大寺が初めて世親講を大々的に興している事態に鑑(かんが)みて、法然の思慮が学問と世態の上に周到に行き渡っているのがみられる。(佐藤春夫『極楽から来た』)1302 我はこれ氷魚を食はぬ男なり 「ボクの細道]好きな俳句(2400) 野見…

木魚歳時記第4662話

『往生論』が南都仏教の始祖とも見るべき世親の著であるのを思えばこの問題もすぐわかるが、法然が世親のこの著を「三経一論」として所依の経論に取ったのは正に敵の剣を取って敵の胸に擬したかの概がある。南都仏教はこのため、教学上実際にはも早や浄土一…

木魚歳時記第4661話

このようにしてできた全く無署名の署の教学上の最も重要な点は、改めて説くまでもなく弥陀の本願たる念仏を選択したところにあるが、また所依の経論を確定した点も見逃してはなるまい。「三部経」に『往生論』一部を加えたことをいうのであるが、法然があれ…

木魚歳時記第4660話

法然は口授しながらも、生涯に見た多くの経や論などのなかのさまざまな意見を星空の星のように思い浮かべながら、往年の己はさながら、広野の道に迷うて闇夜の星に行く手を聞いていつ旅人のような身であったと過去を回想し、選択、本願、念仏などの文字を口…

木魚歳時記第4659話

執筆には安楽房遵西、引文照合は証空であったが、中途に遵西を退けて真観代えた。遵西を中途で退けたのは、彼はわが身に能があってこの大任に当たるを得たことのよろこばしさと、増上慢めいた言葉を洩らしたのを法然がにくみたしなめたのであった。(佐藤春…

木魚歳時記第4658話

そこで然るべき門弟たちを選び、それに口述して筆録させる方法によった。『選択本願念仏集』、念仏一行の行相と安心とを明確に示し、特に弥陀色心(みだしきしん)の光明遍照の事実を明示して、称名の行を先にすべき事を「三経一論(浄土三部経と『往生論』…

木魚歳時記第4657話

(五)さらば穢土のかたみにもと筆を執ってみたが、平素文筆に親しまない身に病後の無気力は、思わしくも筆が進まない。それでいて書きたいことは油然(ゆうぜん)と雲のように湧き起るのをおぼえた。(佐藤春夫『極楽から来た』)1296 書初に「天上天下唯我…

木魚歳時記第4656話

一時はさしもの念仏も退転したほどの容体で、やがては浄土へ帰るであろうともいい、遺戒文まで作ったが、老年のため回復が遅々としていただけで、しんの強いこの肉体と気迫に満ちた精神とは気候の温暖とともに順次快方に向かうと、気力も生じ、初めはあまり…

木魚歳時記第4655話

遺跡を一か所に限るのも好ましくない。念仏の声のあるところすべてをわが遺跡と思うからといったことのあったのは、キリストが弟子たちに汝ら三人集まるところ必ず我在りといったのと相通じるゆかしいものである。(佐藤春夫『極楽から来た』)1294 独尊と墨…

木魚歳時記第4654話

『遺戒文』を見ると、一身の没後なにもかもきれいさっぱりと散じて跡なくなり、唯門門弟らが睦まじく各自一心に念仏生活に徹することが理想で、吉水教団の第二世などはまったく念頭になく、むしろその解散を期待していたやに思える。この法然の志が当年も現…

木魚歳時記第4653話

それから宗教的活動としては、図仏、写経、檀施(法のPRのために施主となること)等の善を修することなくただ一向(いっこう)に念仏せよと戒めて、念仏以外に真の善行のないことを教えている。(佐藤春夫『極楽から来た』)1292 和尚さて独尊居士や去年今年…