2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記第4801話 

山門の衆徒らは朝廷に訴えて念仏中止を要請したのに対して、法然は元久(げんきゅう)元年十一月七日の起請文を記して、これを叡山に送った。これは門人に対する訓諭の形式で他宗を軽 侮すべかざる事、各自言行を慎むべき事など七ヶ条を記した末に源空が署名…

木魚歳時記第4800話 

僧兵たちもまた、慈円とほぼ似たような矛盾した状態に置かれた存在であった。地方荘園の出身者で正しく庶民であった彼らは、法然の教えが彼らの救いの救いのためにあることをおぼろげながらにも感じないのではなかったけれども、本来があまり思想的訓練のな…

木魚歳時記第4799話  

しかし山門から挙がった火の手は慈円の手心もあってさして猛烈なものではなかった。しかし慈円には別に裏工作があった。彼はその親友澄憲の子の笠置にいる貞慶が南都に属していたのを、父とともに操って、南都をして北嶺以上に猛烈な念仏宗攻撃の火の手を挙…

木魚歳時記第4798話  

法然と慈円との間には明らかに新旧の正面衝突がある。しかもそれを阻むものもある。しか天台座主として宗門の意向を体して法然を一撃しなければならない。慈円は山門をして先ず法然攻撃の火の手を挙げさせつことにした。(佐藤春夫『極楽から来た』)1432 僧…

木魚歳時記第4797話  

しかも法然の庶民の間に布(し)こうとしれいるその教えたるや、古来の天台の伝統たる大方針、鎮護国家の仏教とは全く傾向を異にして個人を国家から解放して阿弥陀仏によって統一させようとする新思潮で、慈円が現在鎌倉幕府と結び、朝廷との間に巧みに介在…

木魚歳時記第4796話  

この時に当って、最も困難に微妙な立場にあった者は、ほかならぬ天台座主で、兼実の弟、慈円大僧正であった。兄兼実は既に深く法然に帰依してその有力な支持者であったうえに、法然はまた円頓戒もその師叡空から継承して、天台にあっても軽々しくは取ともか…

木魚歳時記第4795話  

(二)法然の立宗は、古来の各宗が、一つの行としてこれを採用しながら、さほどに重要なものとしていなかった念仏の浄行を、最も重要な行業として取り上げ、これを中心に一宗を開いたもので、そこには格別何ら非難すべきものもなかったし、はじめは微々たる…

木魚歳時記第4794話  

これらの獅子身中の虫の発生に乗じて、得たりとばかり、念仏宗の攻撃に立ったのが正面の敵南都北嶺であった。(佐藤春夫『極楽から来た』)1428 夜焚火の焙り出したる七卿落 「夜焚火」(よたきび)は冬季です。七卿落ち(しちきょうおち)は、1863年(文久3…

木魚歳時記第4793話 

念という文字は人二人の心とよむ。一念とは人二人が心を一つにするよむ。されば男と女二人寄り合って、我も人も心よからん時に、一度にただ一声、南無阿弥陀仏と申すを一念義という。されば後家ややもめで独りで居る者は、この一念の行はじければ、往生はす…

木魚歳時記第4792話

幸西はもと叡山西塔南谷に住していたが法然の門に来て、天台の宗解を以て浄土の宗義をほしいままに説いて、門下から擯斥(ひんせき)され、ついには破門されたものであったが、彼は三万べん六万べんの念仏を棄(すて)てよ、それは念仏の義を知らず申す迷え…

木魚歳時記第4791話

これらの自明の理(ことわり)をさえ理解せず、いや恐らくは理解せぬではなく、好んで曲解したとしか思えないのだが、念仏の徒は肉食も乱行も勝手放題 、念仏も重ね重ね数多く申すのは間違いで一念が本当だと称して、一念義というものを唱えはじめたのは成覚…

木魚歳時記第4790話

また十念(十ぺんの念仏口称)を説いたのも、日常渡世に追われて閑(ひま)のない衆生に行じ易いようにという考えからであった。それ故、法然はむしろ、衆生が自律的にまたその志から戒律を守りまた多くの念仏を欲したとしたらならば、法然自身がそれをした…

木魚歳時記第4789話

例えば、法然がその僧庵に戒律風なものの発生を嫌ったのも、末代の社会状況と人間の本姓とに鑑みて、衆生のために病人におかゆを与えるような親切な心づかいから聞こうとする易行門に、聖道門風なものが入り込んで衆生のために道をふさぐのを警戒したので、…

木魚歳時記第4788話

法然はできるだけ俚耳(りじ)に入りやすく説いて、その教えは「一枚起請文」みるように単純至極、ただお念仏を申しさえすればよいのである。そうして理論も何もなく、法然説くところも直観的であったから、その真意は知り難く、私意を加えれば誤解を生じや…

木魚歳時記第4787話

しかし恐るべきは、そういう正面からの敵ではなく、そのうわっつらだけを知って本当には理解せずに、運動に参加する付和雷同の徒である。これらが獅子身中の虫というものなのであろう。 吉水の僧団に人が多く入り込むようになるに従って、なかには法然の真意…

木魚歳時記第4786話

第三十一章 美僧ありき (一)新しい思想運動が起れば、伝統的な思想は、当然必ずこれを圧迫するのが古今の通則である。ことに宗教上でそれが著しい。何故かといえばそれが信仰と渡世とに直接つながり、また集団をなしているために、往々に戦争の原因にさえ…

木魚歳時記第4785話

金光(こんこう)が東北の教化に旅立つ時、伝道のために人を見る目を教えて、「浄土の法門を聞きて悲喜をなし身の毛いや立ち抜き出す如くなるなるはこの人、過去世に既に仏道をなし来れるなり」 とさとし、遠州に帰る禅勝に「念仏を申されんよう口すぎすべし…

木魚歳時記第4784話

「同じと信じます」 信空、証空らの眼はキと親鸞をこの高慢な男めと見据えているうちに師は、「法然も同じ思いだぞ、それが浄土門の信心で、それに浅いも深いもない。聞きしまま信ずる人こそ、正しく但信口称(たんしんくしょう)の妙好人(みょうこうにん)…

木魚歳時記第4783話

またある日、信空、証空、聖覚、熊谷、隆寛らの集まった師の前で親鸞が、「師の御房の御信心と我らが信心と違いがあるのでございますか。無くて等しいのでございましょうか」 と問うと、法然は間髪を入れず反問した。「そなたの考えは?」(佐藤春夫『極楽か…

木魚歳時記第4782話

「鎮西よそなたの考えは?」「どうして異ならず同じとは申せましょうか。釈尊とも仰ぎ参らすわが師と安波の介の念仏とを」「はてね」と法然は顔色を曇らせて、「鎮西ほどの者がまだそんな考えでいやったか。阿弥陀仏よ、この不びんなわが身を救い取らせ給え…

木魚歳時記第4781話

もと強盗であった教阿や耳四郎、女衒(ぜげん)の安波の介、聖光、証空、熊谷らが中の房に会していた時、法然が一同に問いかけた・・「おのおの方、この源空が申す念仏と阿波の介申す念仏とに違うところが有りとせられるか、無しとせられるか」たれも答える…

木魚歳時記第4780話

それが西方浄土からじかに射す光か、それとも法然その人から放射しているかは考え及ばない熊谷であったが、ここ吉水を極楽の別所か何かのように思って、ここから動き出そうともしなかった。 しかし、鎮西の聖光が、近くその故国に帰る決心を聞くと、彼が師の…

木魚歳時記第4779話

熊谷は、鎌倉、郷関(きょうかん)、京洛の間を往還し、また今度の中国筋旅行など、広く歩いて国土の遠近を見るにつけて、宮闕(きゅうけつ)にも、鎌倉幕府の屋形にも、摂関家の奥にも、この中の房ほど透明に静かな明るさの降りそそいでいるところはどこに…

木魚歳時記第4778話

(五)法然は権力と利害とで繋縛(けいばく)されている国民が極楽往生にかけては平等な資格を持ち、才不才、学無学、貧富、老幼、男女の差別の無い事を衆生に悟らせ、浄土門の信心の、これまでの八宗の教える信心と異なるものであるのをおぼろげにも感じ取…

木魚歳時記第4777話

法然は事態のさっぱりしたのを喜び、熊谷の処置をよしとした。これが現存の誕生寺の由来である。 魚住の泊りや、小野に重源の別所を見て来たという熊谷を法然は羨(うらや)み、めずらしげにそのみやげ話に耳を傾ける時、師はまるで子供だと熊谷は思った。(…

木魚歳時記第4776話

熊谷は稲岡荘が法然の父方の兄に横領されている現実を確かめて、法然の父の兄と今後の制約をかため、邸跡には寺を営ませてささやかながら念仏の別所を起こし、そこには両親の、また菩提寺には観覚の塔を建てさせ、さて後の監督は備後の地頭小次郎に委ねてき…

木魚歳時記第4775話

熊谷の居ない吉水の中の房では、聖覚の姿もめったに見えず、親鸞が兼実の末娘を娶(めと)ったのを妬(ねた)み誹謗する弟子たちもいた。師法然がこれを是認していただけに、門下の反感はなお募(つの)り行くかに思われた。 吉田から七条の兼実別邸に移って…

木魚歳時記第4774話

その親鸞は当初、客分として中の房に止宿したが、程なく吉田辺に寓を見つけて去った。親鸞は熊谷と同じく聖覚の手引きで来た。そのせいばかりでなく純真な性情の類似で、親鸞は熊谷と最も親密で、同門間の誤解や反感も熊谷によって多く解かれたが、熊谷が旅…

木魚歳時記第4773話

建仁(けんにん)元年正月二十五日、式子内親王の他界とともに、法然には極楽はいよいよ身近に感じられて来たが、それでもこの土に内親王を見失った法然の心にうつろが生じたかに感じられていた折から、期せずして現れ、法然の心の空虚を満たしたのが親鸞(…

木魚歳時記第4772話

しかし、年々、父の遺領の年貢が遅滞し不納もあるのをいい出した熊谷が、息子の任地が美作に近いのを幸い、一度実地を検し て、後は備後地頭小次郎に見させてはと提案したので、法然も故郷のその後の実情を調べて置く気になり、師の故郷を一度は見て置きたい…