2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記 第3566話

さて今日は、観覚が三度目に出向いて来て、道中の相談であった。可愛い子にどうして旅をさせようか、海路か、陸路か、どちらもあんまり安心できない。 海路は日和さえ見定めれば楽であろうが、純友(すみとも)の事以来横行しつづけている海賊のことが陸路よ…

木魚歳時記 第3565話

(二)はじめは何かと二の足をふんで、弟のせっかくのすすめにも従わなかったえ童子の母も、観覚の熱心に動かされたころ、観覚が最後の手だてに、童子自身が出向いて口説かせたのが功を奏したか、しばらく見ないうちに、急におとなびたわが子の立居ふるまい…

木魚歳時記 第3564話

「都ですぐれた師に就き、切磋琢磨(せっさたくま)の友を持てば自然とはげみも出て大成します。勢至丸はもう童子ではない。山寺でわたしなどが教える器量ではありませんから、こうお願いするのです」 と、観覚の熱意は面(おも)にあふれている。同じ相談は…

木魚歳時記 第3563話

「あの全僧連のことを心配しておられるのですか。あれはすべての大衆のことで決して全山があの騒ぎではありません。あれは一部の大衆や堂衆の行動です。学侶は学侶で静かに道を求めています。(佐藤春夫『極楽から来た』)266 涅槃西風畑も青くかすんでる 涅…

木魚歳時記 第3562話

それでも都はもの騒がしく不安なありさまではありませんか。南都にせよ北嶺にせよ、修行どころか打ち物取っての大あばれというではありませんか。一つぶ種のわすれがたみを、そんな危っかしい都へは出せませんよ」(佐藤春夫『極楽から来た』)265 三月の分…

木魚歳時記 第3561話

「そう足もとから鳥の立つようなことをいい出しても」「でも勢至丸も、もはや十三歳、おとなです。元服させてもよい年ではありませんか。いつまでも子供だと思っていてはいけません」(佐藤春夫『極楽から来た』)264 花冷や雲がちぎれて飛んでゆく 「ボクの…

木魚歳時記 第3560話

「それは行く先はそうさせたいと思っておりますが」「行く行くではありませんよ。今は一日も早くです。かいこが桑を食べるように今が知識のかてに飢えている最中なのですから」(佐藤春夫『極楽から来た』)263 来てみたら鳰の巣がないどうしやう 鳰(にお)…

木魚歳時記 第3559話

「それで当人も希望している様子も見えますし、一日も早く都へ上がらせて学ばせたいとわたくしは考えていますが、このことをご承引(しょういん)くださいますまいか」(佐藤春夫『極楽から来た』)262 鳰の巣といちいちふれて歩くのは 鳰(にお) 「ボクの…

木魚歳時記 第3558話

「いいえ。何も特別には教えません。持って生まれた天分と申すものでしょう。実はそれでご相談ですが、日進月歩、長足の進歩はとても、わたくしのような凡骨の手におえません。(佐藤春夫『極楽から来た』)261 (平成25年~27年)「足跡(4)」 蜜蜂が澄ん…

木魚歳時記 第3557話

と、観覚は息もつかずに一気にいう。大げさにほめそやかすので、その子の母は少してれた様子で、やっと一言、「それもみなそなたのおしつけのおかげでしょう」(佐藤春夫『極楽から来た』)260 冬の夜に蠅が一匹死にました 「ボクの細道]好きな俳句(1307)…

木魚歳時記 第3556話

分別があり、ものの悟りが早いだけではありません。修行熱心で朝から晩まで修行をおろそかにしないのは兄弟たちもみな感心しています」(佐藤春夫『極楽から来た』)259 老僧の拈華微笑や臘八会 拈華微笑(ねんげみしょう) 「ボクの細道]好きな俳句(1306…

木魚歳時記 第3555話

一を聞いて十どころか、百も知ろうかというお人です。実は、はじめ兄上が勢至丸(せいしまる)とご命名になったのを、もったいないと思ったものでしたが、今ではよくもおつけになったと感心して、わたくしは文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の再来かたとも考えて…

木魚歳時記 第3554話

「姉上、お元気で、新年あめでとう。今年も相変りませず・・」 と、律義な観覚は他人行儀な一礼と新年のあいさつをすますと、いきなり、「童子もめでたく十三歳を迎えました。元気ですとも。あれは姉上、容易ならぬお子ですよ。(佐藤春夫『極楽から来た』)…

木魚歳時記 第3553話

まだ正月も半ばだというのにさすが里の春は早いと、いまさら山の風の寒さを思い出して、火桶に手をかざしている。久しぶりの弟の来訪に、あずけているひとり子の消息が聞けると姉は何をおいても早くと、いそいそと迎えに出て、そのまま座敷に腰を落ち着ける…

木魚歳時記 第3552話

第五章 文殊像一体 (一)観覚は途(みち)すがら、ところどころで梅が香のただようのを聞いたが、今、倭文(しどり)の家に来てみると、その庭の見なれた老木には南枝がもう七分咲きであった。(佐藤春夫『極楽から来た』)255 六道の辻で飴売る傀儡師 傀儡…

木魚歳時記 第3551話

法蔵比丘はこの四十八の願望を満たす衆生のための浄土が開けないなら、わが身も仏にならないと願文にちかって、専ら衆生のために精進をつづけ、やがて菩薩に、ついには阿弥陀仏と成仏した。すなわちその念願の国は成就したわけである。 極楽はこういう精進の…

木魚歳時記 第3550話

この国(仏の国)では男女は平等、一切は自由であるが、人間の諸悪を根本的に除き去ったこの国の自由は決して放縦にはならない。(佐藤春夫『極楽から来た』)253 霜柱細菌病理研究所 「ボクの細道]好きな俳句(1300) 柿本多映さん。「冬蝶よ草木もいそぎ…

木魚歳時記 第3549話

そのために、法蔵はあらゆる仏の国々から最もすぐれた文明をよりすぐり、また人間性を探って一切の悪を除き、清浄な楽しみと思われる何物をも逸せず採り集めた四十八項目の願文(がんもん)をそのユートピア建設の具体的プランとした。(佐藤春夫『極楽から…

木魚歳時記 第3548話

わが一身はたとえどんな悪苦に沈もうとも悔いず、必ず努力精進する、と世自在王如来を証人に立ててちかい、その仏(世自在王如来)の弟子(法蔵菩薩)となった。(佐藤春夫『極楽から来た』)251 冬帝の日本列島わしづかみ 「ボクの細道]好きな俳句(1298)…

木魚歳時記 第3547話

と、この感激から法蔵比丘(ほうぞうびく)は、自身もこの聖法王のように解脱して仏となり、今までの諸仏の国々にまさる最上の国を開き、衆生をして清浄な喜びにひたらせたいという念願のために、(佐藤春夫『極楽から来た』)250 大空は何ごともなし鳥帰る …

木魚歳時記 第3546話

功徳(くどく)は広大 智慧は甚深 光明のおん遺徳や 一切世界はために振動せん (佐藤春夫『極楽から来た』)249 死ぬときは丸裸なり草の花 「ボクの細道]好きな俳句(1296) 柿本多映さん。「てふてふやほとけが山を降りてくる」(多映) ああ、こんな俳句…

木魚歳時記 第3545話

仰ぎまつる 人中の雄よ 獅子王よ如来よ おん威光は無量に (佐藤春夫『極楽から来た』)248 口ひらく人形寺や鐘凍る 「ボクの細道]好きな俳句(1295) 柿本多映さん。「いつよりか箪笥のずれて穴惑」(多映) 「穴惑」(あなまどい)とは、冬眠の季節を迎え…

木魚歳時記 第3544話

真理を説き給いて み声は十方世界にとどろき 六波羅密(ろくはらみつ)の悟道成らせて ご遺徳は稀有(けう)なるかな み心は諸仏の教えに深く入り その深奥(しんのう)を極め尽くして 貪欲(とんよく)、怒り、愚痴(ぐち)、悩みを 永く人間の心より除き去…

木魚歳時記 第3543話

おん威光の前には 光輝みな失(う)せて墨となる 如来よおん姿は 世にたぐいなくめでたし (佐藤春夫『極楽から来た』)246 夜焚火のあぶり出したる七卿落 「ボクの細道]好きな俳句(1294) 柿本多映さん。「天才に少し離れて花見かな」(多映) そうです。…

木魚歳時記 第3542話

おん顔(かんばせ)の神々しさよ おん威光また限りなし かかるおん威光は 世の何物にかたぐうべき 太陽や月やはた如意宝珠(にょいほうしゅ)も (佐藤春夫『極楽から来た』)245 戒名のからくれなゐや卒塔婆焚き 「ボクの細道]好きな俳句(1293) 中村草田…

木魚歳時記 第3541話

「世自在王如来の説法を聞いて感激し、たちまち大菩提心(無上真正の道心)を起し出家して僧となり法号を法蔵(ほうぞう)と名のり、聖法王の足もとに来て、その仏の足をおし頂いきこの如来を三たび右に回って礼拝し、足もとに身をふせて、如来の徳に賛美を…

木魚歳時記 第3540話

「過去仏は錠光如来(じょうこうにょらい)以来、五十三のみ仏たちを数えることができるが、五十四番目に出現した世自在王仏の時、高才勇哲(こうさいゆうてつ)、世に超異(ちょうい)した一人の王があって、」(佐藤春夫『極楽から来た』)243 鶏小屋は藁…

木魚歳時記 第3539話

「三世の諸仏といって、過去現在未来の三世にさまざまな仏の出現がある。みなそれぞれに仏の国を開いている。阿弥陀仏の極楽浄土もそのうちの一つなのである」(佐藤春夫『極楽から来た』)242 夜神楽の中に消えたる陰陽師 「ボクの細道]好きな俳句(1290)…

木魚歳時記 第3538話

「もとはオシャカさま同様やはり王様で、それが国をすて王位をすてて僧の修行を志されたので、よほどすぐれた器量をお持ちのお方であったと見える。現代の言葉で云えば知的スーパーマンとでも云うのか、経文には『高才勇哲(こうさいゆうてつ)、世に超異(…

木魚歳時記 第3537話

「そのアミダ仏さまも、もとはやはり普通の人間だったのですか」「そうだ。普通の人間だったからこそ人間の苦しさ、悲しさもご存じでそれを救おうとなされたのだ。いや普通の人間といっても、」(佐藤春夫『極楽から来た』)240 「みなと屋」の幽霊飴や風花…