2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記第4457話

この非常事で悪い年は暮れて、明くれば治承五年であったが、この新春は東国の頼朝の兵と南都の重衡の火とのために拝賀もご停止で主上のお出ましも音曲もなく、二日の宴酔もお取りやめであった。藤原氏の公卿は氏寺焼失のためみな引きこもっていた。 そのさび…

木魚歳時記第4456話

九条兼実は興福寺を氏寺とする藤原氏の分かれの一人だけに、その悲嘆もまた大きくその日記には、「七大寺已下悉ク灰燼ト変ズ、仏法モ王法モ滅尽シ畢(おわ)ルカ、凡ソ言語ノ及ブ処ニ非ズ、筆端ノ記スベキに非ズ、余コノ事ヲ聞イテ心神屠(ほふ)ルガ如シ、…

木魚歳時記第4455話

(四)現代の我々にあってはただ文化史上重大な損失であった。戦争は昔も今も同じように好ましくないとしか感じさせないが、熱烈な仏教信仰に生きていたその時代の人々にとって大仏殿の炎上は世界の破壊を目のあたり見るこの上なく怖ろしい事件であった。そ…

木魚歳時記第4454話

聖武天皇勅願の総国分寺、鎮護国家の大道場、金光四天王護国寺も、藤原累代の氏寺たる興福寺も一切の財宝とともに、今は暁闇(ぎょうあん)の星かげの下に、ただ一やまの余燼(よじん)となって、朝風の通うところどころが赤く燃え残っている。 重衡、通盛を…

木魚歳時記第4453話

火は大仏殿にまで燃えうつり、煙に巻かれた群衆は、体力の弱い者から順々にあとへあとへ、廊下に倒れ落ちるころには、業火のなかにただらなぬ地ひびきがあった。 それはこの阿鼻焦熱(あびしょうねつ)を救うすべを知らなかったのを慚愧(ざんき)するかのよ…

木魚歳時記第4452話

歩行も不自由な老僧や準縄(じゅんじょう)な修学僧、それにちごたち、女子供などは、ここならば助かりもしようからと、大仏殿や山階寺(やましなでら)の内へ先を争って逃げ込んで行く。 大仏殿の二階にはざっと千人あまりも登った。敵の追い来るのを登らせ…

木魚歳時記第4451話

十二月二十八日の事で、折から寒風が激しく火は風を呼んで一つの火が八方の寺々に吹かれて飛び広がった。宗徒の勇気ある者はみな奈良坂や般若寺で討ち死にしていたから、防火に努める者もなく、生き残って歩ける者は猛火を見返りながら、吉野や十津川方面へ…

木魚歳時記第4450話

大将軍重衡は般若寺の門前に馬を立てて、「あまりに暗い、火を出せ」 と命じると、播磨住人下司次郎大夫友方という者が心得て、足元の盾を踏み割り、これをたいまつにして民家に火を放った。(佐藤春夫『極楽から来た』)1099 春めくや口で息する和尚さん 「…

木魚歳時記第4449話

じりじり押されて行く衆徒のなかに、坂四郎永覚という音にひびいた剛の者の悪僧がいて、萌黄(もえぎ)おどしの鎧(よろい)帽子甲(かぶと)に身を固め、白柄の大薙刀(おおな訊きなた)を揮って馬の脚をなぎ倒し、兵の胴腹をぶち切り、同宿十余人の一隊を…

木魚歳時記第4448話

法師どもは徒歩で打ち物をとって白兵戦を主としているが、官軍は騎馬で機動力もあり弓矢を主にしているから、宗徒の数は官軍がまだ近づかぬ間に見る見る少なくなって行く。 早朝から終日の交戦で、日の暮れ方には奈良坂も般若寺のとりでも敗れて衆徒は退散し…

木魚歳時記第4447話  

(三)官軍の大将は頭中将重衡、中宮亮通盛を副将として、大和河内の兵、合せて四万騎を率い南都に攻め入る。南都の衆徒七千余人は老若を問わず、甲の緒をしめて、奈良坂、般若寺二ヶ所の路に豪を掘り、盾をかつぎ出し、さかも木を据えて防禦怠りなく迎え撃…

木魚歳時記第4446話  

還都のことをすますと、平貞能を追討使として九州に派遣し、また知盛、資盛、清綱らを近江、伊賀、伊勢に派遣して、地の利を占めて京都への運上物を略奪していた近江の山下柏木らを討伐させ、知盛は十二月に入って山下や柏木を征服したが、興福寺の衆らに呼…

木魚歳時記第4445話  

こんな情勢のなかで遷都を望む声は日々に高まり、都を京都にかえせば遠地の動揺も近国の賊も平定するだろうという意見もあり、清盛も多数の意見の前にしぶしぶ我を折って十二月に十五日、ついに還都した。(佐藤春夫『極楽から来た』)1094 春浅し外科と内科…

木魚歳時記第4444話  

荘園の運上(うんじょう・年貢)を停止する者が続出するうえに、近江のインチキ武者山下義経や柏木義兼は手下に延暦寺、園城寺の衆徒などをもまじえて、逢坂山や鈴鹿峠あたりに待ち伏せて運上品を横取りすることがしきりであった。荘園や知行国に依存する平…

木魚歳時記第4443話  

伊豆の頼朝の挙兵、熊野三山の別当湛増の謀反、その他諸方、貴族の知行国の目代が襲撃されるなど不穏な情報が続々と福原に達したのはこのころであった。 そうして九月末日に福原を出発した維盛の頼朝追討軍が十月に富士川で大敗し、天下に平氏の威信を失墜す…

木魚歳時記第4442話  

叡山のこの情勢は、さすがに平家をおびやかしたらしい。平時忠と藤原隆季とが相談して、清盛に遷都の事を謀ると清盛は、「もっとも然るべし。ただし老法師においては、お共に参るべからず」 といった。つまり勝手にしろ、乃公は動かぬぞといったわけである。…

木魚歳時記第4441話  

然るに逆に延暦寺の方では七月ごろに衆徒の間で騒ぎを起こした。彼らは以仁王の挙兵に際して座主の制止のため一致した行動を邪魔されのを不本意として座主排斥運動をはじめたもので、これは明らかに間接的な反清盛の動きであるが、それがやがて遷都反対の強…

木魚歳時記第4440話  

寺院に対しても、まず三月下旬には、以仁王に味方した園城寺(おんじょうじ)の末寺荘園を没収し、僧綱以下を解任し、つづいて八日には、興福寺に対しても同様の処置に出たが、延暦寺だけは以仁王に加担しなかったから格別の対策にも出なかった。(佐藤春夫…

木魚歳時記第4439話  

本来、清盛は頼朝を助命した程、寛大で気のやさしい性格であったが、権勢になれた結果か、それとも老来の生理か、このごろは壮時の寛大なところを失って、万事少々過酷になる傾向があったところへ、以仁王の事件が彼をよほど刺激したものとみえる。(佐藤春…

木魚歳時記第4438話  

(二)福原遷都は、世人がうわさしたのを兼実が記して置いたとおり衆徒ども特に南都を討つための準備であったらしいが、まだそこまでは手がまわらなかった。 そかし清盛は新都に移って以来、従来の寺院に対する消極的な妥協案は捨てて、決然たる反撃に出てい…

木魚歳時記第4437話  

清盛は以仁王の事件が法皇の使嗾(しそう)に出たと見て、法皇に対するこの敵意である。法皇もこの事はお察しあって清盛のすすめる召し上りものには毒物がまじっていないかとお心づかい遊ばし,戸外の人の足音の近づくのにお耳を傾けさせては者どもが刀を忍…

木魚歳時記第4436話  

この時、法皇は清盛の別荘に居られたとは名ばかりで、実は、清盛の別荘の庭の一隅に外部との交渉を断つ頑丈な木柵の中央に狭い板囲いの小屋を設けたなかに幽閉し奉った。(佐藤春夫『極楽から来た』)1085 鈍色に残雪宿し奥比叡 「ボクの細道]好きな俳句(2…

木魚歳時記第4435話  

古京は荒れてと長明は記した。実際、古京の夏草は茂るがままに日一日と廃都の姿が目に立ち、今は秋風落莫たるなかに、昔ながらのものは月かげばかりのの廃都になると思われるにつけても、都民ばかりか都との交渉の多い諸山でも遷都反対のきざしは動いていた…

木魚歳時記第4434話  

当年二十八歳の鴨長明は、たまたま用があって「古京は荒れて、新都いまだ成らぬ」ころの福原に行って、山が近く海が迫って条里を割るには足らぬ狭い新都の地勢や新都となったため地を失った者の愁(うれ)い、また新都に家を建てる者の嘆き「ありとしある人…

木魚歳時記第4433話  

この時、旧都の柱に、 百年をよかへり迄に過ぎこしに 愛宕の里は荒れや果てなん とあったのは四百年来の旧都に対する愛惜で、また東寺の道ばたに札を立て 咲き出づる花の都をふり捨てて風ふく原の末ぞあやふき と落首した者のあったのは、平家に対する憤りを…

木魚歳時記第4432話   

それにしてもあまりの急な事に、百官は狼狽し、女房などは泣き出す、福原に着いてみても宿るべき家もなく、路傍に宿泊するという有様で、もちろん内裏とてもないから、天皇(安徳)は頼盛りの、上皇は清盛の、法皇は敦盛りのと、それぞれに平家の別荘の主な…

木魚歳時記第4431話   

山門、寺門、それに奈良法師らの以仁王事件に対する影響の六波羅に波及するのをおそれて、一時、西海との連絡のよい地に疎開して場合によっては南都に対して攻勢に出るつもりだろうという風評などから清盛の意中を推量して、兼実の見たところはほぼ当たって…

木魚歳時記第4430話   

「敢ヘテ、由緒ヲ知ル人ナシ、疑フラクハ南都ヲ攻メラルベキカ。大衆ナホ蜂起、敢ヘテ和平ナシ云々ノ間、恐ラクハ不慮ノ怖レ有ルベキカ、又余党ナホヤマズ、彼ノ畏怖ヲ禦(ふせ)グタメカ」 右大臣兼実はその日記にそう記入した。(佐藤春夫『極楽から来た』…

木魚歳時記第4429話   

第二十三章 大仏殿炎上 (一)以仁王挙兵の時からその意嚮(いきょう)は見えていたが、討伐軍が勝利の五日のち五月三十日、清盛は福原遷都を発表した。公卿や百官に不満の色があったのも顧みず、性急にも六月二日の卯の刻(午前六時)には、天皇(安徳)、…

木魚歳時記第4428話   

天下の騒然たるなかに頼朝は早くも進出したが、これを迎え討つた維盛の軍が富士川の対陣で水鳥の羽音にパニックに三千の大軍が戦わずに敗走して都に帰る姿は世人の笑いを招き、清盛を激怒せしめた。(佐藤春夫『極楽から来た』)1077 鯉こくや鯉の卵をそつと…