2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記 第3626話

ためらいながらありのままに打ちあけたのが、相手の気に入った様子であった。老アジャリは耳を傾け聞き入り、さて慈眼をうるませ、つくづくと少年を見やって、「それは頼もしくよい考えである。しかし、そなたのその決心も今からすぐにではまだ少し早かろう…

木魚歳時記 第3625話

弟子入り少年の方でも、山の生活二年間の間に、だいたい山の事情にも察しがついて、この地は永く居るべきではない、むしろこんな山を立ち出で人知れぬ地に隠れてひとり修行した方がよいのではあるまいかとも考えている心持を、(佐藤春夫『極楽から来た』)3…

木魚歳時記 第3624話

あとから思えば、当時、皇円は求道に絶望して史的著述に志していたので、彼はすぐれた少年学侶を導くことで、また新しい求道の意欲が生まれるかも知れないという一道の微光を感じてこの少年を引き受けたものらしい。(佐藤春夫『極楽から来た』)325 夜濯の…

木魚歳時記 第3623話

せっかくだからともかく一度面会のうえでと、そうして最後にこの少年を一見して、「教えるは学ぶとやら、わしは後生から学ぶ気でしばらく一しょにやってみましょう」というのであった。(佐藤春夫『極楽から来た』)324 剃刀の喉もとあたり鱧の皮 「ボクの細…

木魚歳時記 第3622話

皇円ははじめ、源光から相談のあった時は、自ら出家(しゅっけ)の道に迷っている身ではあり、また、現に門を閉じて目下著述中と容易にに引き受けそうもなかったが、(佐藤春夫『極楽から来た』)323 霜柱細菌病理研究所 「ボクの細道]好きな俳句(1373) …

木魚歳時記 第3621話

持法房源光が身の浅学非才をいって、この優秀児を功徳院皇円(くどくいんこうえん)に送ったのはこの受戒を契機としたのである。(佐藤春夫『極楽から来た』)322 病巣の静止画像や黴の花 黴(かび) 「ボクの細道]好きな俳句(1372) 前田普羅さん。「旅人…

木魚歳時記 第3621話

円頓戒(えんどんかい)というのは、キリスト教徒の洗礼というような天台の儀式で、大乗積極の行動精神をこれによって体得したことになる。彼はここに精神的基盤を固めて、今は本式に一個の出家である。(佐藤春夫『極楽から来た』)321 仏典を食らひて紙魚…

木魚歳時記 第3620話

その十一月、われらの主人公たる美作の少年も早くも志学の歳十五歳に達していたが、いよいよ出家受戒の壇に登って、心をときめかしつつ円頓戒(えんどんかい)を受けた。(佐藤春夫『極楽から来た』)320 仏塔の口ひらきたる花の昼 「ボクの細道]好きな俳句…

木魚歳時記 第3619話

(二)久安三年、八月十二日に天台座主行玄を襲撃した大乗房事件は、院宣によって暴動の首謀者重雲が捕えられたのを、山法師たちが奪還する騒ぎもつづいたが、越前の白山は終に叡山領となって事はすみ十月三十日には大乗房行玄が再び天台座主に復した。(佐…

木魚歳時記 第3618話

院では忠盛の子清盛をして銅三十斤(きん)で父をあがなわせてやっと解決を見たが、忠盛にくみしたという理由で大乗坊を襲撃した大衆は、天台座主行玄(関白師実の子)を追い出しその房を破壊した。 山は今や道場どころか、正に戦場であった。(佐藤春夫『極…

木魚歳時記 第3617話

しかし久安二年は山でもまだ静かな年で、翌三年四月に白山強訴の騒ぎがあり、六月にはもっと本格的に山の大衆が日吉(ひえ)の神輿(みこし)をかつぎ出してきらら坂を下り、平忠盛(たいらのただもり)の流罪を強請し、(佐藤春夫『極楽から来た』)317 恋…

木魚歳時記 第3616話

憧れにあこがれてきたこの山上の聖域、そのかみの鎮護国家の道場とても、浄土ではない。時代の荒波は打ち寄せて、やはりもう平和な求道の地ではなく、内外に敵をひかえた油断のならない所と、少年は早くも甘い夢から覚めて厳しい現実の相を見抜きはじめてい…

木魚歳時記 第3615話

そこで学生に仕える大衆、大衆に仕える堂衆と山内であは自然と、学生、大衆、堂衆の階級的区別が生じていた。それ故、学生と堂衆との衝突は一種の階級闘争なのである。さて、一口に大衆と呼ばれる僧兵どもは、地方荘園武士あがりの堂衆を主力として、それに…

木魚歳時記 第3614話

学生が都鄙(とひ)の上流家庭の子弟、なかには大臣や公卿の子弟もまじるのに対して、大衆は主として寺に属する諸国の荘園から入山した若者ばかいで、彼等が入山に当たってわが家の荘園武士を奴隷としてつれてきたのを大衆と呼んでいた。(佐藤春夫『極楽か…

木魚歳時記 第3613話

そののち程なく同じ山門内で堂衆と学生(がくしょう)とが衝突し、堂衆が敗北して山を追われる事件もあった。仏事を大事にする学生に対して、大衆とは学生に仕えて山内の雑務一切を司る者であった。(佐藤春夫『極楽から来た』)315 (平成30年) 「自分史」…

木魚歳時記 第3612話

それにしても寺門(園城寺)と山門(延暦寺)とは、もと同じ天台の血を分けた兄弟であり、何のためにこんな忌々しい争いが起こるのかわからなかったが、寺領の争いや天台座主をそれぞれに自分の派閥から出そうというのが根本で、それがさまざまな形を変えて…

木魚歳時記 第3611話

これは田舎出のかの少年僧が、僧兵の活動を見た最初の機会であった。同じく僧兵といっても、さすがに都のものだけあって、山の治安を守るのが精一杯の菩提寺の僧兵などとはその数も行動もおのずからわけが違うと後にして思えばツマラナヌことに感心したので…

木魚歳時記 第3610話

「寺門(大津園城寺・おんじょうじ)の僧徒が攻め上るとかいうのにそなえての用意らしい」 といううわさであった。果たして押し寄せた寺門の僧徒は勢い猛に、延命院一乗房を焼き払い、勝ち誇って引き上げた。(佐藤春夫『極楽から来た』)312 つめたくてそし…

木魚歳時記 第3609話

根本中堂前の広場に集まったのを、これが音に聞く僧兵というものかと少年は目を見はった。 それにしても三塔六谷を霞のこめたこののどかな日に、これは何ごとが起ころうとしているのかと、人々の語り合うのに耳を傾けると、(佐藤春夫『極楽から来た』)311 …

木魚歳時記 第3608話

第六章 法然房源空(一)美作(みまさか)の少年僧が叡山に登った二年目の久安(きゅうあん)二年の三月のある日、山中が何とも知れず騒がしく、表に出て見ると、坊主頭を袈裟(けさ)などで包んで目だけをギョロリと出した奇異な風俗の大群が手に手に持った…

木魚歳時記 第3607話

叡山でもこのごろはもはや、僧としての年功やその厚徳などによらないで、専ら門閥や学問および世俗な身分の高下が僧としての世に立つに欠くべからざる条件となっているのをこの少年が知ったのは、その三、四年も後のことである。(佐藤春夫『極楽から来た』…

木魚歳時記 第3606話

この少年を皇円に入門させてのは親切な源光の心づかいに出たもので、当の少年は立身出世のために有力な必要なことなどまだ知らず、ただ師匠のさしずのとおりに動いていたのであろう。(佐藤春夫『極楽から来た』)308 性悪のいたちたうたうつかまへた 「ボク…

木魚歳時記 第3605話

皇円は摂政兼家の四男、豊前守(ぶぜんのかみ)藤原道兼の四世の孫で、長兄資隆(すけたか)が肥後守であったために肥後のアジャリと号したので、当時『扶桑略記』(ふそうりゃっき)の推敲中でもあったろうか、当時功徳院の門は常に閉ざされていた。(佐藤…

木魚歳時記 第3604話

そうしてその手もとにはわずかに二年足らず置いただけで、「愚鈍の我の如キ、コノ麒麟児が教導ノ任ニアル資格ナキヲ自ラ憫(あわれ)ミ且ツ憾(うら)ム。庶幾ス幸ニ台下ノ門ニ在リテ懇(ねんご)ロノ垂教ヲ賜エ云々」という文とともにこの少年を東塔西谷功…

木魚歳時記 第3603話

少年は東塔、西塔、横川(よかわ)などの三塔や諸堂をひとり巡拝して喜びとした。 源光は『天台四教義』(てんだいしきょうぎ)や『倶舎(ぐしゃ)六百行』などを詠ませてみて、この少年の非凡な読みの深さに驚き、旧友観覚がこれを大聖文殊と呼んだのも、彼…

木魚歳時記 第3602話

延暦寺の境域は菩提寺より少々高いくらいのものであったが、杉、檜まどが多く立ち並んで昼なお暗く生い茂り、深山の趣は那岐山などの比ではない。林中には咲き出した山百合を折る人もなく黒い揚羽蝶(あげはちょう)がわがものに舞い狂っている季節であった…

木魚歳時記 第3601話

案内のままについていって、どこがどことも知らなかったは、後に思えばきらら坂を登って東塔の方から根本中堂、大講堂などの前を西塔を過ぎて黒谷青龍寺の門前を左に折れて北谷へ出たのである。(佐藤春夫『極楽から来た』)303 秋の夜のどこかで鈴が鳴つて…

木魚歳時記 第3600話

「この後とても、ここで間に合うことならば、遠慮なく申し出なさい。一族のよしみをお見せしたいから」ともいって。秦氏本家の当主は見るからに純朴げな分家の少年を頼もしいものに思って気にいったとみえる。(佐藤春夫『極楽から来た』)302 山寺にざつく…

木魚歳時記 第3599話

主人はかえってその云い分を奇特がって、日常の必需品などを取りそろえさせたのを持たせた従僕をひとり案内につけて、比叡の北谷へ案内させた。 少年が礼をのべて辞し去ろうとするに当たって主人は、(佐藤春夫『極楽から来た』)301 炊きたての旬の香りや茸…

木魚歳時記 第3598話

(五)太秦の秦氏では、しばらくのうち絶えていた美作の分家から、思いがけずよこした少年を、快くもてなして、しばらくは家の客となって京見物をせよというが、少年は都の見物に来たのではない、修行に来たのだから、一日も早く山に登りたいと、せっかくの…