2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記第4561話

二十五日、神鏡と玉璽(ぎょくじ)とは早くも鳥羽に着し直ちに太政官庁に入る。翌二十六日、宗盛以下の俘囚、鳥羽に着き、その日都大路を渡された。二の宮は院よりのお迎えがあり、建礼門院は吉田のほとり奈良法師の坊に入られ、五月一日、長楽寺の阿性房(…

木魚歳時記第4560話

さすれば当時(建久九ー元久二のころ)慈鎮の粟田口の清蓮院の一屋に扶侍(ふじ)されて棲んだ行長が祇園社の宮寺の鐘を耳にし清蓮院の庭園に移植された沙羅樹を眼前にして冒頭の句を書き下して、平家の奢りを春の夢と報じたとする説に私もうなずく。(佐藤…

木魚歳時記第4559話

なお、その上にこの平家の作者が冒頭の「祇園精舎の鐘の声、沙羅双樹の花の色」と書いたのか、この双句の後に、すぐつづけて「遠く異朝をとぶらへば」の一句で出直したのを見れば、ここの鐘の声や花の色の方は決して必ずしも遠く天竺のものを指すのではない…

木魚歳時記第4558話  

この十八字が建暦二年以前に引用されたとすれば、相伝の秘書であった『選択集』 からの引用文は、法然から書写の許された信空聖光(しょうこう)らの高足から被閲の使を与えられる行長のような立場の人でなければ不可能であろう。(佐藤春夫『極楽から来た』…

木魚歳時記第4557話  

覚一本には、法然関係の事で、今一つ見逃がすべからざる事がある。それは維盛入水の段の滝口の説法中に「初め無三悪趣(むさんなくしゅ)の願よりおわり得三法忍(とくさんぼうにん)の願にいたうまで一々の請願」の一節に『選択本願念仏集』(せんちゃくほ…

木魚歳時記第4556話  

信空は叡空の円頓戒の弟子で、叡空の死後法然の弟子となった人であり、法然からも円頓戒を相承して戒念一如を考えた人であるから、その空の手をくぐりながらも確然と、法然の第二期の考えの特徴が、覚一本に保ち伝えられているのは、その事自体が、真相を伝…

木魚歳時記第4555話  

覚一本のこの段の材料は、法然の最古の弟子信空が、原平家の作者に与えたものに相違あるまい。 今わたくしのいう原平家の作者とは『つれづれ草』が平家の作者と伝える信濃前司行長のことであるが、彼司行長こそは藤原行隆の子で、実に信空の兄なのである。(…

木魚歳時記第4554話  

法然はこの第二の時代には、ただ念仏のみを説いて、戒は求めるものもののみに念戒一如の形で説いた。覚一本のこの段は、法然のこの第二の時代の形を伝えている。おくれて出た伝記の十巻本になると、同じ重衡 との場合でありながら、念戒一如の形だけに書きな…

木魚歳時記第4553話  

古い法然の伝記の一つである『本朝祖師伝記絵詞』には「戒品(かいほん)を地体(じたい)としてそのこゑに毎日七万遍の念仏を唱へて、おなじく門弟のなかに教え給ひける」また「上人は初めは戒をとき人に授け、後には教えを弘めてほとけになさしめ給ふ」の…

木魚歳時記第4552話  

法然を描かんとして、たまたま『平家物語』を繙(ひもと)いたわたくしは、ここで少しく『平家物語』を考えてみたい。というのはこの物語とのいま戒物と名づけられている段は、片鱗ながらも法然を伝えた最も古いものと考えられる節があり、そしてもし、原平…

木魚歳時記第4551話  

(四)土肥次郎の手つぎで、捕らわれの重衡を訪ねた法然は往生の得否は、信心の有無によることや、一念十念空(むな)しからずと浄土宗の至極を説いたこと、その後に、重衡の求めのままに、戒を授けたことを覚一本の『平家物語』は伝えている。(ブログ作者…

木魚歳時記第4550話  

重景も石童丸も続いて海に沈み、武里ひとりは遺言を抱いて先ず屋島へ、さて京の北山にと向かう。 熊野の郷土史は維盛の入水を疑い、彼を那智の里に隠れ棲んだと伝説する。(佐藤春夫『極楽から来た』)1191 秋涼し「6年は組」同窓会 「ボクの細道]好きな俳…

木魚歳時記第4549話  

浄土に入らせなば、妻子を導き召すも御意のままにこそ、としきりに鐘打ち鳴らし称名を勧めると、維盛も西に向かって手を合わせ、高声(こうしょう)念仏百遍ばかり、南無と唱える声もろともに飛び入って、春の海の渦巻きとなった。(佐藤春夫『極楽から来た…

木魚歳時記第4548話  

と、善知識にと伴われた滝口入道に向かっていい出したのは正気のことばで「只今ももい出したるぞや」とは、さこそはと思われて哀切である。 滝口入道は熊野権現の本地は阿弥陀仏と教え、さて阿弥陀仏四十八願の大要、わけても第十八願念仏往生の願の無量の慈…

木魚歳時記第4547話  

「さては都に今を限りといかでかわ知るべきなければ、風の便りの音信にも今や今やと待たんずらめと思われて、妻子というものは持つまじかりける者哉。今生にも物思はするのみならず、後世菩提の妨げ成りぬる事こそ日惜しけれ、只今も思い出したるぞや」(佐…

木魚歳時記第4546話  

那智山上の観世音二後世を祈願して山を下ったのは三月二十八日、山麓那智湾の長汀(ちょうてい)、浜の宮から主従三人勝浦湾外へ乗り出して沖の山成島に舟を寄せた。沖とはいえ、湾外の程近くのあたり、島とはいえ、ただ海波の囲む一塊の巨岩の上に、往年、…

木魚歳時記第4545話  

今一度、都に潜入して北山に隠れ住む妻子に見(まみ)えもし見もせんとしたが、都に入って万が一捕われとなっては悔いでも及ばないと、それを思えばこれもかなわず、一途に高野に来た。 滝口入道にも会い、出家の望みも遂げ、さて熊野の本宮新宮の参詣も果た…

木魚歳時記第4544話  

三月十五日の明け方、屋島を脱出した彼は重代の家人重景、侍童石童丸、舎人武里を伴って阿波結城浦から、紀の川口に着き高野山に至って、さきの家の侍で今は滝口入道の斉藤時頼を訪ねたのはいかにしても牢獄としか感じられなくなったこの世の繋縛(けばく)…

木魚歳時記第4543話  

福原が守れない以上、本拠は屋島よりない。それにしても福原にいる一族郎党のどれだけが無事にここにあつまるだろうか。維盛はこれを思いつづけて心が暗い。味方の船が敗報と敗戦の将兵をとを運んで来る毎に、最も切ない者は彼であった。 三草山の前哨戦の失…

木魚歳時記第4542話  

、 (三)維盛はこの開戦に先立ち、福原に帰った当座、北の方からの消息を得て、妻子をここに呼ぼうかと考えたが、考え直し思いあきらめているうち、三草山(みくさやま)の戦線に立って義経に撃破され、一味とともに高砂から屋島へ逃れ入った。(佐藤春夫『…

木魚歳時記第4541話  

一ノ谷、生田ノ森、ひよどり越付近の敗戦は、手傷を負った将兵を乗せた舟の着く毎に、戦死者や捕らわれの数が増して、屋島にいる人々の心は挫(くじ)け、思いはますます暗くなって行く。戦死者や捕らわれた人の女房などで投身して果てる者もあった。 屋島で…

木魚歳時記第4540話  

忠度は義経の中央突破による混乱で、味方の軍船に至る隙を見出せず、最も遠く逃れ来て討たれたのであるが、東口の副将重衡は、湊川、狩藻川も打ち渡り駒林、板宿、須磨と敵に追い続けられ、船に乗り込む隙もなく、馬を射られて海に乗り入れながら生け捕られ…

木魚歳時記第4539話  

六弥太を投げて退け、忠度は西に向かって今は最後の光明遍照(こうみょうへんじょう)の文(もん)を唱え終わろうとするところを、六弥太がうしろから首を取った。今の明石市に忠度町があり五輪の忠度塚が残る。(佐藤春夫『極楽から来た』)1180 すっぽんの…

木魚歳時記第4538話  

薩摩守忠度の死も全く同じケースで、百騎余りに囲まれて落ちていた彼が武蔵の六弥太に追いかけられて、二人馬を並べて組めば、忠度の百騎はすべての国々の借り武者とて一騎も顧みる者なく我先にと落ちて行く。無常無残の者どもばかり、忠度が取り押さえて首…

木魚歳時記第4537話  

わが子ほどのいたいけさながら、名を問えば、問う者先ず名乗れちいい、名を告げれば早く首を打て、持って帰らば見知る者もあらんずと、若さにも似ず落ちつきはらって品格高く天晴の大将ぶりである。熊谷はすっかり感服してこれを助けたい思ったが、後につづ…

木魚歳時記第4536話  

須磨の浦で、敦盛が馬をうって海に乗り入れたところを熊谷直実に呼び返され、けなげにも取って返したんを、波打際ででむんずと組み伏せられ、熊谷が首を掻こうと甲(かぶと)を押しのけてみれば、薄化粧をしてかねぐろをはいた十六、七歳ばかりの美少年であ…

木魚歳時記第4535話  

ひよどり越の辺りから義経は突如乗り入れて、平氏の陣地を中央部から東西真っ二つに両断し、平氏の両陣地は各々背後を敵に衝かれて、全くの混乱に陥り兵庫から須磨にかけての海岸に、あらかじめひかえさせた己が軍船へ逃げる退路は全く閉鎖されて袋の鼠であ…

木魚歳時記第4534話  

西ノ木戸は一ノ谷、東の木戸は生田ノ森、山手は福原の北の丘、その各々に主力を分けて配備した。福原の北の丘の背後にひよどり越えの検所がある。それを『平家物語』は、ひよどり越を一ノ谷の真義と地勢を誤っているため戦況の展開の叙述がごたついている。…

木魚歳時記第4533話  

(二)一路鎮西に落ち、思いきや、大宰府は追われながらも、長門で舟船を得て、屋島に止まり、山陽西国四十四ヶ国を討ち取って、義仲、行家は破り走らせて、都落ちののち、半歳にして、平氏は再び福原まで帰り来り、義経、頼朝の軍に対して構え固め。(佐藤…

木魚歳時記第4532話  

宗盛は馬の頭を立て直し、対岸男山の翠緑のあたりに宮居を遥拝しつつ「八万大菩薩の本地(ほんじ)は西方極楽如来とこそ聞け。さば源氏といわず至尊のおん事は申さずもがな、我ら平氏のうからが上にも、本願誤たず、摂取不捨(せっしゅふしゃ)の御守りあら…