2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記 第3263話

「今日のことば」 内共は慌てて 鼻へ手をやった。 手に触るのは、昨夜の短い鼻ではない。 上唇の上から、 顎(あご)の下までの長い鼻である。 (芥川竜之介『鼻』)抄18 「ボクの細道」好きな俳句(1014) 大木あまりさん。「逝く猫に小さきハンカチ持たせ…

木魚歳時記 第3262話

「今日のことば」 翌朝、内共が眼をさますと、 庭は黄金を敷いたように明るい。 禅智内共は深々と息をすいこんだ。 ほとんだ、忘れようとしていた、 ある感覚が帰ってきたのは この時である。 (芥川竜之介『鼻』)抄17 「ボクの細道」好きな俳句(1013) 大…

木魚歳時記 第3261話

「今日のことば」 内共は、鼻の短くなったのが、 恨めしくなった。 するとある夜のことである。 寝つこうとしても寝つかれない。 ふと、鼻がむず痒(かゆ)いので 手をあてると、熱気がある。 (芥川竜之介『鼻』)抄16 「ボクの細道」好きな俳句(1012)。 …

木魚歳時記 第3260話

「今日のことば」 「人がその不幸を、 どうにかして、切り抜けると、 こんどは、(見ている)こちらが なんとなく物足らない心もちがする。」 その人に敵意すら抱く。 (芥川竜之介『鼻』)抄15 「ボクの細道」好きな俳句(1011) 大木あまりさん。「柿むい…

木魚歳時記 第3259話

「今日のことば」 「前にはあのように つけつけとは哂(わら)わなんだで。」 内共は、時々、呟(つぶや)くことがあった。 内共は、昔をしのび、 ふさぎこんでしまうのである。 (芥川竜之介『鼻』)抄14 「ボクの細道」好きな俳句(1010) 大木あまりさん…

木魚歳時記 第3258話

「今日のことば」 ところが、 意外な事実を発見した。(内共の鼻を見た者が) 前よりもいっそう可笑しそうな顔をして、 内共の鼻を眺めることである。 とうとうこらえかねて、 吹き出してしまったことすらある。 (芥川竜之介『鼻』)抄13 「ボクの細道」好…

木魚歳時記 第3257話

「今日のことば」 鼻は、あの顎(あご)の 下まで下がっていた鼻は、 今はわずかに上唇の上で 意気地なく残喘(ざんぜん)を 保っている。 内共は満足そうに眼を しばたたいた。 (芥川竜之介『鼻』)抄12 「ボクの細道」好きな俳句(1008) 大木あまりさん…

木魚歳時記 第3256話

「今日のことば」 「もう一度、これを茹(う)でればようござる。」 弟子が云う。 内共は、弟子の云うなりになっていた。 「もう一度、これを茹(う)でればようござる。」 (芥川竜之介『鼻』)抄11 「ボクの細道」好きな俳句(1007) 大木あまりさん。「秋…

木魚歳時記 第3255話

「今日のことば」 やがて、粟粒のようなものが、 できはじめ、鼻は、 毛をむしった小鳥を 丸灸(やき)したような形である。 「この毛をぬけということでござる。」 と弟子は云う。 (芥川竜之介『鼻』)抄10 「ボクの細道」好きな俳句(1006) 大木あまりさ…

木魚歳時記 第3254話

「今日のことば」 「痛うはござらぬかな」 弟子の僧は、内共の禿げ頭を 見下ろしながら、気の毒そうな顔をした。 「痛うはないて」 痛いよりもかえって気持ちのいいくらいだったのである。 (芥川竜之介『鼻』)抄9 「ボクの細道」好きな俳句(1005) 大木…

木魚歳時記 第3253話

「今日のことば」 鼻は湯気に蒸されて、 蚤(のみ)の食ったように むず痒い。 弟子の僧は、茹(う)だった 内共の鼻を両足で踏みはじめた。 (芥川竜之介『鼻』)抄8 「ボクの細道」好きな俳句(1004) 大木あまりさん。「寒風に売る金色の卵焼」(あまり…

木魚歳時記 第3252話

「今日のことば」 ただ、湯で鼻を茹(う)で、 人に踏ませると云う 極めて簡単なものであった。 しばらくすると 弟子の僧が云った。 「もう茹(う)だった 時分でござろう」 (芥川竜之介『鼻』)抄7 「ボクの細道」好きな俳句(1003) 大木あまりさん。「…

木魚歳時記 第3251話

「今日のことば」 京へ上がった弟子の僧が、 長い鼻を短くする法を すすめだした。 その法というのは 極めて簡単なものであった。 (芥川竜之介『鼻』)抄6 「ボクの細道」好きな俳句(1002) 大木あまりさん。「秋風や酔ひざめに似し鯉の泡」(あまり) 「…

木魚歳時記 第3250話

「今日のことば」 しかし鍵鼻(かぎはな)は あっても、内共のような 鼻は見当らない。 内共の心は次第にまた 不快になり、おもわず ぶらりと下がる鼻の先を つまんでいた。 (芥川竜之介『鼻』)抄5 「ボクの細道」好きな俳句(1001) 宇多喜代子さん。「…

木魚歳時記 第3249話

「今日のことば」 内共は、絶えず人の鼻を 気にしていた。 一人でも自分のような 鼻のある人間を見つけて、 安心がしたかったからである。 (芥川竜之介『鼻』)抄4 「ボクの細道」好きな俳句(1000) 宇多喜代子さん。「夕方の影あいまいに春障子」(喜代…

木魚歳時記 第3248話

「今日のことば」 むしろ、自分で 鼻の心配を気にしている ということを 人に知られるのが 嫌だったからである。 自尊心のために苦しんだのである。 (芥川竜之介『鼻』)抄3 「ボクの細道」好きな俳句(999) 宇多喜代子さん。「夏の暮騎手の美貌をみてゐ…

木魚歳時記 第3247話

「今日のことば」 五十歳を越えた内共は、 内心ではこの鼻を苦に 病(や)んできた。 僧侶(そうりょ)の身で 鼻の心配をするのが悪い、 そればかりではない。 (芥川竜之介『鼻』)抄2 「ボクの細道」好きな俳句(998) 宇多喜代子さん。「夏の母熟睡の蹠…

木魚歳時記 第3246話

「今日のことば」 禅智内共の鼻といえば、 池の尾で知らない者はない。 長さは五六寸あって 上唇の上から顎(あご)の下まで 下がっている。 (芥川竜之介『鼻』)抄1 「ボクの細道」好きな俳句(997) 宇多喜代子さん。「厄介なひとも来てをり初芝居」(喜…

木魚歳時記 第3245話

「今日のことば」 犍陀多が 血の池に沈んでしまうと お釈迦さまは 悲しそうなお顔をなさりながら お歩きになり始めました。 極楽ももう午(ひる)に近く になったのでございましょう。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄25 おわり 「ボクの細道」好きな俳句(956…

木魚歳時記 第3244話

「今日のことば」 お釈迦さまは 極楽の蓮池のふちで この一部始終を見て いらっしゃいました。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄24 「ボクの細道」好きな俳句(995) 宇多喜代子さん。「たっぷりと冬芽や四十五本の木」(喜代子) なぜ45本なのか? 悩まないで…

木魚歳時記 第3243話

「今日のことば」 後には、蜘蛛の糸が、 きらきら細く光りながら、 月も星もない空の中途に 短く垂れているばかりでございます。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄23 「ボクの細道」好きな俳句(994) 宇多喜代子さん。「八月の赤子はいまも宙を蹴る」(喜代子…

木魚歳時記 第3242話

「今日のことば」 犍陀多も罪人たちも 独楽(こま)のように くるくるまわりながら 暗(やみ)の中に まっさかさまに 落ちてしまいました。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄22 「ボクの細道」好きな俳句(993) 宇多喜代子さん。「戦争も好きと一声かたつむり…

木魚歳時記 第3241話

「今日のことば」 その途端でございます。 今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、 犍陀多の手元から ぷつりと音を立てて 断(きれ)れてしまいました。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄21 「ボクの細道」好きな俳句(992) 宇多喜代子さん。「横文字の如き午睡のお…

木魚歳時記 第3240話

「今日のことば」 犍陀多は 大きな声を出して 「こら、この蜘蛛の糸は 己(おれ)のものだ。下りろ下りろ。 と喚(わめ)きました。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄20 「ボクの細道」好きな俳句(991) 桂 信子さん。「たてよこに富士伸びてゐる夏野かな」(…

木魚歳時記 第3239話

「今日のことば」 自分一人でさえ 断(きれ)そうな この蜘蛛の糸を 今のうちに どうにかしなければ、 地獄に落ちてしまう。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄19 「ボクの細道」好きな俳句(990) 桂 信子さん。「ふところに乳房ある憂さ梅雨ながき」(信子) …

木魚歳時記 第3238話

「今日のことば」 ところが、気がつくと 数かぎりもない罪人たちが、 まるで蟻の列のように 犍陀多の後をつけて よじのぼってくるでは ございませんか。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄18 「ボクの細道」好きな俳句(989) 桂 信子さん。「きりぎりす腰紐ゆる…

木魚歳時記 第3237話

「今日のことば」 血の池は もう暗(やみ)の底に 針の山は ぼんやり光っています。 犍陀多は思いました 「しめた」 地獄から抜け出せる。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄17 「ボクの細道」好きな俳句(988) 桂 信子さん。「からうじて鶯餅のかたちせる」(…

木魚歳時記 第3236話

「今日のことば」 犍陀多は 蜘蛛の糸をつかみ のぼり始めました。 しばらくのぼるうちに、 犍陀多はくたびれ ふと下を眺めたのでございます。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄16 「ボクの細道」好きな俳句(987) 桂 信子さん。「かはらけの宙とんでゆく二月か…

木魚歳時記 第3235話

「今日のことば」 犍陀多は これを見ると、 思わず手を拍(う)って 喜びました。 この糸をのぼって行けば、 地獄からぬけ出せる。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄15 「ボクの細道」好きな俳句(986) 桂 信子さん。「ゆるやかに着てひとと逢ふほたるの夜」(…

木魚歳時記 第3234話

「今日のことば」 銀色の 蜘蛛の糸が、まるで 人目にかかるのを 恐れるように、 自分の上に垂れて くるではございませんか。 (芥川竜之介『蜘蛛の糸』)抄14 「ボクの細道」好きな俳句(985) 桂 信子さん。「一本の白毛おそろし冬の鵙」(信子) 作者にか…