2017-01-01から1年間の記事一覧

木魚歳時記 第3293話

「今日のことば」 余は、がぶりと湯を呑んだまま 槽(ゆぶね)の中に突立つ。 驚いた波が、胸へあたる。 温泉(ゆ)の音がざあざあと鳴る。(後略) (夏目漱石『草枕』)抄29 おわり 「ボクの細道」好きな俳句(1044) 星野立子さん。「桃食うて煙草を喫う…

木魚歳時記 第3292話

「今日のことば」 輪郭は白く浮き上がる。 今一歩踏み出せば、せっかくの嫦娥(じょうが)が、 あはれ、俗界に堕落せんと思う刹那、 白い姿は階段を飛び上がる。 (夏目漱石『草枕』)抄28 「ボクの細道」好きな俳句(1043) 星野立子さん。「青麦に沿うて歩…

木魚歳時記 第3291話

「今日のことば」 室を埋むる湯煙は、埋めつくしたたる後から絶えずに湧きあがる。 虹の世界が濃(こまや)かに揺れる中に 真白な姿が雲の底から浮き上がる。 その輪郭を見よ。 (夏目漱石『草枕』)抄27 「ボクの細道」好きな俳句(1042) 星野立子さん。「…

木魚歳時記 第3290話

「今日のことば」 余が面前に娉婷(ひょうてい)とあらわれたる姿には、 神代(かみよ)の姿を雲のなかに呼び起したるがごとく自然である。 (夏目漱石『草枕』)抄26 「ボクの細道」好きな俳句(1041) 星野立子さん。「午後からは頭が悪く芥子の花」(立子…

木魚歳時記 第3289話

「今日のことば」 女の影は遺憾なく、余が前に、はやくもあらわれた。 黒髪を雲と流して、有らん限りの背丈を、すらりと伸ばした 女の姿を見た。 (夏目漱石『草枕』)抄25 「ボクの細道」好きな俳句(1040) 星野立子さん。「春たのしなせば片づく用ばかり…

木魚歳時記 第3288話

「今日のことば」 人体の骨格については、視覚が鋭敏な方である。 何とも知れぬものの一段うごいた時、 余は、女と二人、風呂場の中に在ることを覚った。 (夏目漱石『草枕』)抄24 「ボクの細道」好きな俳句(1039) 星野立子さん。「父がつけしわが名立子…

木魚歳時記 第3287話

「今日のことば」 黒いものが一歩を下に移した。 踏む石は天鵞毯(びろうど)のごとく 柔らかと見えて、足音を証にうごかぬようだ。 輪郭がすこし浮き上がる。 (夏目漱石『草枕』)抄23 「ボクの細道」好きな俳句(1038) 星野立子さん。「たはむれにハンカ…

木魚歳時記 第3286話

「今日のことば」 階段の上に何物かがあらわれた。 広い風呂場を照らすものは、 ただ一つの小さな釣り洋燈のみである。 確(しか)と物色はむつかしい。 (夏目漱石『草枕』)抄22 「ボクの細道」好きな俳句(1037) 星野立子さん。「ひらきたる春雨傘を右肩…

木魚歳時記 第3285話

「今日のことば」 誰か来たなと、身を浮かしたまま、 視線だけを入口に注ぐ。 しばらくは軒(のき)をめぐる 雨音のみが聞こえる。 (夏目漱石『草枕』)抄21 「ボクの細道」好きな俳句(1036) 星野立子さん。「何といふ淋しきところ宇治の冬」(立子) な…

木魚歳時記 第3284話

「今日のことば」 余は湯槽のふちに仰向けにの頭をささえて、 透き徹(とお)る湯のなかの軽きからだを、 できるだけ、抵抗力なきあたりへ漂わしてみた。 ふわりと、魂が浮いている。 (夏目漱石『草枕』)抄20 「ボクの細道」好きな俳句(1035) 山西雅子さ…

木魚歳時記 第3283話

「今日のことば」 寒い。手ぬぐいを下げて、湯壺へ下る。 すぽりと浸かると乳のあたりまで這入る。 たちこめた湯気は天井を隈なく埋めて、 心地よい。 (夏目漱石『草枕』)抄19 「ボクの細道」好きな俳句(1034) 山西雅子さん。「川底の木の葉ふたたび流れ…

木魚歳時記 第3282話

「今日のことば」 昨夜書いた「海棠の 露をふるふや 物狂」 その下に「海棠の 露をふるふや 朝烏」 とつけ加えた者がある。 「正一位 女に化けて 朧月」 その下に「御曹司 女に化けて 朧月」とある。 馬鹿にしたつもりか。 (夏目漱石『草枕』)抄18 「ボク…

木魚歳時記 第3281話

「今日のことば」 「部屋はお掃除がしてあります。いずれのちほど・・」 ひらりと腰をひねって駆けて行った。 銀杏返し結っている。 白い襟がたぼの下から見える。 (夏目漱石『草枕』)抄17 「ボクの細道」好きな俳句(1032) 山西雅子さん。「桃の木の脂す…

木魚歳時記 第3280話

「今日のことば」 「さ、お召しなさい。」と後ろに廻って ふはりと余の背中へ柔かい着物をかけた。 「ありがとう」 向き直る、途端、女は二歩退いた。 (夏目漱石『草枕』)抄16 「ボクの細道」好きな俳句(1031) 山西雅子さん。「木の股を越ゆる木の蔓春寒…

木魚歳時記 第3279話

「今日のことば」 「御早う。昨夜はよく寝られましたか」 戸をあけるのと、この言葉とは、ほとんど同時にきた。 さっそくの返事も出るいとまさえない。 (夏目漱石『草枕』)抄15 「ボクの細道」好きな俳句(1030) 山西雅子さん。「秋澄むと子犬を膝に乗せ…

木魚歳時記 第3278話

「今日のことば」 湯壺の中で顔を浮かしていた。 昨夜はどうしてあんな心地になったのであろう。 濡れたまま上って、また驚かされた。 (夏目漱石『草枕』)抄14 「ボクの細道」好きな俳句(1029) 山西雅子さん。「大空にしら梅をはりつけてゆく」(雅子) …

木魚歳時記 第3277話

「今日のことば」 唐紙がすうと開いた。 女の影がふうと現れた。 色の白い 髪の濃い、襟足の長い女である。 唐紙が閉まる。 余が眠りはしだいに濃(こま)やかとなる。 (夏目漱石『草枕』)抄13 「ボクの細道」好きな俳句(1028) 山西雅子さん。「胴に鰭寄…

木魚歳時記 第3276話

「今日のことば」 「正一位 女に化けて 朧月」 「海棠の 露をふるふや 物狂」 「春の夜の 雲に濡らすや 洗ひ髪」 「うた折々 月下の春を おちこちす」 「思ひ切って 更け行く春の 独りかな」 (夏目漱石『草枕』)抄12 「ボクの細道」好きな俳句(1027) 山…

木魚歳時記 第3275話

「今日のことば」 障子をあけ、あの声はと、耳の走る見当を 見破ると・・ わがいる部屋の棟の角が、すらりと動く、 背の高い女の姿を、すぐに遮ってしまう。 (夏目漱石『草枕』)抄11 「ボクの細道」好きな俳句(1026) 山西雅子さん。「一筋の髪が手に落ち…

木魚歳時記 第3275話

「今日のことば」 障子をあけ、あの声はと、耳の走る見当を 見破ると・・ わがいる部屋の棟の角が、すらりと動く、 背の高い女の姿を、すぐに遮ってしまう。 (夏目漱石『草枕』)抄11 「ボクの細道」好きな俳句(1026) 山西雅子さん。「一筋の髪が手に落ち…

木魚歳時記 第3274話

「今日のことば」 気のせいか、誰かが小声で歌をうたって いるような気がする。 「長良の乙女」の歌を、 繰り返すように思われる。 (夏目漱石『草枕』)抄10 「ボクの細道」好きな俳句(1025) 山西雅子さん。「拾ひたる温き土くれ七五三」(雅子) 「七五…

木魚歳時記 第3273話

「今日のことば」 宿についたのは八時ごろであった。 取次ぎも、湯壺への案内も、 晩飯の給仕も床を敷く面倒も・・ ことごとく小女がひとりでする。 (夏目漱石『草枕』)抄9 「ボクの細道」好きな俳句(1024) 山西雅子さん。「引掻いて洗ふ船底秋没日」(…

木魚歳時記 第3272話

「今日のことば」 婆さんの話では 「那古井のお嬢さまにはいろいろとわけがあり、 嫁いださきから、城下で随一の物持ちの、那古井の 温泉宿に戻っている。」 と、まあ、こんなことであります。 (夏目漱石『草枕』)抄8 「ボクの細道」好きな俳句(1023) …

木魚歳時記 第3271話

「今日のことば」 「ほんとうに気の毒なあんな器量を持って。 近頃はちっとは具合がいいかい。」 「なあに、相変わらずさ」 「困るなあ」と婆さんが大きな息をつく。 「困るよう」と源さんが馬の鼻をなでる。 (夏目漱石『草枕』)抄7 「ボクの細道」好きな…

木魚歳時記 第3270話

「今日のことば」 馬子唄の鈴鹿越ゆるや春の雨 「おや源さんかい。また城下へ行くかい。」 「娘に霊厳寺の御札をもらってきておくれ。」 「お秋さんは仕合せかい。」 「仕合せとも、あの那古井のお嬢さまと比べて御覧。」 (夏目漱石『草枕』)抄6 「ボクの…

木魚歳時記 第3269話

「今日のことば」 「宿屋はたった一軒だったね。」 「へえ、志保田とお聞きになれば、 湯治場だか隠居所だかわかりません。」 「じゃお客がなくても平気なわけだ。」 (夏目漱石『草枕』)抄5 「ボクの細道」好きな俳句(1020) 藺草慶子さん。「叡山やみる…

木魚歳時記 第3268話

「今日のことば」 峠にあった茶店で 婆さんに聞いてみる。 「ここから那古井までは 一里足らずだったね。 「はい、二十八丁と申します」 旦那さまは湯治におこしで・・ (夏目漱石『草枕』)抄4 「ボクの細道」好きな俳句(1019) 藺草慶子さん。「十人の僧…

木魚歳時記 第3267話

「今日のことば」 固(もと)より急ぐ旅でないから、 ぶらぶら七曲りへかかる。 たちまち足の下で雲雀の声がし出した。 せっせと忙しく、絶間なく鳴いている。 山を越えて落ちつく先の、今宵の宿は 那古井(なこい)の温泉場か。 (夏目漱石『草枕』)抄3 …

木魚歳時記 第3266話

「今日のことば」 住みにくさが高じると、 易い所に引き越したくなる。 どこへ越しても住みにくいと 悟った時、詩が生まれ、 画(え)が出来る。 (夏目漱石『草枕』)抄2 「ボクの細道」好きな俳句(1017) 藺草慶子さん。「もつと軽くもつと軽くと枯蓮」…

木魚歳時記 第3265話

「今日のことば」 智に働けば角が立つ。 情に棹させば流される。 意地を通せば窮屈だ。 とかく人の世は住みにくい。 (夏目漱石『草枕』)抄1 「ボクの細道」好きな俳句(1016) 藺草慶子さん。「学校へ来ない少年秋の蝉」(慶子) 昔から「学校へ来ない少…