木魚歳時記第4171話

彼が山を下ったと聞き知った旧友たち、例えば、彼とよく仁和寺に行った阿性房や、後年代彼に代って東大寺大仏殿の大勧進をした重源など、あるいは新居を見るためといい、あるいは法然の見出した道を聞こうと集まってきた。(佐藤春夫『極楽から来た』)832 …

木魚歳時記第4170話

仮屋は法然の知らぬ間にできていた。仮屋はやがて草庵になり薪水のことも秦氏が適当な者をよこしてくれるという。法然は身軽にここにきて住んだ。(佐藤春夫『極楽から来た』)831 花明り仏吐きたる空也像 「ボクの細道]好きな俳句(1915) 鈴木六林男さん…

木魚歳時記第4169話

土地というのは、西山の山すそにあって、山の一部は庭にまでせり出して敷地を狭くしているが、それも一つの趣となって、草庵には広すぎるほどの土地に、法然は一目で気に入った。清涼寺の門とは呼応するほどの近さにある。西北に山を背負い、南に大堰川の水…

木魚歳時記第4168話

山城から丹波にかけての川筋に多くの山林を持っていた秦氏は、このところ材木の商人となっていたが、保元以来兵火で焼失した民家の復興やまた造寺の興隆の機運を見て建築業も兼ねて巧みにそれぞれの筋にわたりをつけて、近来また巨万の富を蓄え、草庵はおろ…

木魚歳時記第4167話

そうして住むに適当な家は目下のところ無いが、土地ならばある。閑静で山水の眺めもよく隠居所に思ったが少し狭い。上人おひとりの草庵なら手ごろと思う。釈迦堂のすぐそばだから、今に案内させる。一度見てそこでよいならば草庵の一棟ぐらい、彼岸すぎまで…

木魚歳時記第4166話

それでも山には学侶がますます少なくなり、今では大衆の山になってしまったばかりか、法然の見つけた道は山の人々とは少し行き方の違うところもあり、法然は町の人々の間に住んで、釈迦堂あたりに集まる一般の人々と道を語りたいのだと説明するとやっとわか…

木魚歳時記第4165話

彼は法然の久しぶりの訪問を喜び、道を見つけたと聞いてわが事のように喜んだ。しかし、それだのに山を下ってこのあたりに来て住みたいという法然のいい分は、はじめはよほど腑(ふ)に落ちないらしかった。。(佐藤春夫『極楽から来た』)826 モナリザの外…

木魚歳時記第4164話

(三)これもまた二十年ぶりに見る秦氏の主人は、初老のような血色を見せながら、頭はすっかりはげて一毛もなうい変わりようであった。しかしむかし、田舎からポット出の一族の少年に寄せた一方ならぬ好意は、今も依然として持ちつづけていた。従妹はあたり…

木魚歳時記第4163話

と法然はさも愉快げに短く笑った。彼は本来そういう気さくな性分なのである。今日は最初の布教に好成績をあげてうれしいのであろう。 清涼寺からの帰路を最初から考えていたとおり太秦(うずまさ)の秦氏(はたうじ)へ立ち寄った。(佐藤春夫『極楽から来た…

木魚歳時記第4162話

おばあさんはさっそくつぶやくようにいう。「南無阿弥陀仏」「そうです、そのとおり十ぺん申すだけでよいのです。もうすこし声が大きければ阿弥陀さまになおよく聞こえます。内緒ごとではないのだから」(佐藤春夫『極楽から来た』)823 石一つ泥鰌いつぴき…

木魚歳時記第4161話

「そんなわけのないことですか。あまりあっさりしていて、たよりないようでございますけれど」「そのあっさりしているところをありがたいとは思いませんか。でも阿弥陀さまが、ここへ来たい者はどんな不埒(ふらち)な者でも、わが名を呼んでほしい、わが国…

木魚歳時記第4160話

「おばあさん、往生の話は、ついわけもないことでした。行儀も作法もいりません。いつどこででも思い立った時、十ぺんほど阿弥陀さまのお名をお呼び申しさえすればよろしいとお経文に書いていますし、むかしのジナの御上人さまもいっておられました」(佐藤…

木魚歳時記第4159話

「おやおや、それはごきんとうさまに、ありがとうございます」 と老女は少し笑いをふくんで、「こう老いぼれましたので、往生のお話は、その時より今の方がもっと重宝になりましたよ」(佐藤春夫『極楽から来た』)822 たちまちに巨きな「ぎぎ」の釣れにけり…

木魚歳時記第4158話

「忘れるのはあたりまえですよ。二十年も前に、それもたった一度だけ、ここでやっぱりこうしてお茶を汲んでもらったことのあった若い坊主ですよ。その時、おばあさんから往生の道をきかされて何の返事もできず、勉強して今によくわかったらまたお話に来まし…

木魚歳時記第4157話

「おばあさんお幾つにおなりですか」「さ、わたしおととし本卦還(おんけがえ)りでしたろうか」(佐藤春夫『極楽から来た』)820 熊蜂の尻のあたりに花粉症 「ボクの細道]好きな俳句(1903) 鈴木六林男さん。「月の出や死んだ者らと死者を待つ」(六林男…

木魚歳時記第4156話

「わたしはほかに行きどころがありません。お釈迦さまのおかげで、ここに飼い殺していただいておりますよ。時にあなたさまはどなたでございましたろうか。年を取りました、とんともう半ばぼけに、何もかも忘れておりましたすみません」(佐藤春夫『極楽から…

木魚歳時記第4155話

「おばさん、やっぱりここにいたんですね」 と話かけると、相手はけげんな顔をしながらも、(佐藤春夫『極楽から来た』)819 まんさくやはじめはグーよじゃんけんぽん 「ボクの細道]好きな俳句(1901) 野見山朱鳥さん。「秋風や書かねば言葉消えやすし」(…

木魚歳時記第4154話

むかし見て、母を思い出させて老女、今もなおいて、むかしと同じようにお茶をすすめてくれたが、白髪あたまでめっきり年を取りやつれてしまい、もし母が生きていても、こうまでは老いこんでいないだろうが、と思われるようにまでなっていた。そうでも法然に…

木魚歳時記第4153話

(二)お盆が過ぎて、すぐに、法然は嵯峨に行き清涼寺(せいりょうじ)の釈迦堂に詣でて、二十年前、そこで見たおばあさんが今もまだいるであろうか、宿坊に立ち寄ってみた。(佐藤春夫『極楽から来た』)817 茎立や小西昭夫といふ俳人 「ボクの細道]好きな…

木魚歳時記第4152話

「そなたの好きな従妹も近くにいるか」「もとは居りました。何しろ二十年前の話、今はどこに居りますやら」法然は若い日に見た少女の面影が浮かぶ・・今は白髪の媼(おうな)と知りながら、「行けばそれも聞いてみましょう」(佐藤春夫『極楽から来た』)816…

木魚歳時記第4151話

「まだしかとは決めて居りませんが、いささか知るべきもあり、行って相談してみて、西山のほとりをどこか捜してみましょう」「嵯峨野の秋は聞くからにたのしいの」「それに時々釈迦堂へお参りもできます」(佐藤春夫『極楽から来た』)815 さへづりの遠い神…

木魚歳時記第4150話

そうしていよいよ決心を固めて、二十余年住み慣れた叡山黒谷の青龍寺を去ろうと、師の叡空を寺内の慈源房に訪(おとな)うて決意のほどをうちあけた。(佐藤春夫『極楽から来た』)814 蜜まみれ尻から逃げる熊ん蜂 「ボクの細道]好きな俳句(1895) 野見山…

木魚歳時記第4149話

往生とは死ぬることではない。行って生きるのである。浄土の聖衆のようにたのしく生きる方法なのである。そのところを篤と会得させて念仏の方法を教えたい。法然はもうじっとしていられないのを感じた。(佐藤春夫『極楽から来た』)813 囀りの中で接吻して…

木魚歳時記第4148話

法然はこの日ごろ常にこう思いつづけていたが、今年のお盆の十五日にも、今度は焼身ならぬ入水往生の人が桂川に多かったという風聞を聞いて、多分去年のお盆の船岡の上人にならったのでもあろうが、人々はこのように穢土(えど)を厭離(おんり)し浄土を欣…

木魚歳時記第4147話

この喜びを衆生のすべてに分けなくてはならない。衆生は貴賤老若を問わず、何人もこのように喜んで生きなければならないものだから、わが身ひとりだけ、このように生きるのでは、あまりに果報が過ぎる。(佐藤春夫『極楽から来た』)811 蜷の道ここに集まる…

木魚歳時記第4146話

こうして命のある限りは、念仏を申しつづけてたのしく、やがて命終る日は浄土の聖衆(しょうじゅう)のお迎えを受けて浄土の荘厳(しょうごん)を見、そこに生きることをわが身かと思えば、今までは事のすべてを厭(いと)わしいものと思った穢土(えど)さ…

木魚歳時記第4145話

と彼は行住坐臥、思いのまま気楽に就眠前にまた起床の前に、時には厠(かわや)上でも、弥陀のみ名を口称(くしょう)し、阿弥陀仏がこれを喜んで受け給う有様まで眼に浮かぶような気がしているのであった。今は六時礼賛を廃して時々刻々の礼讃をしているの…

木魚歳時記第4144話

念仏を申すには時も処も選ばない。別に形式はない。申したいと思うときに申せばよいと知って今は、道場の結界(けっかい)のなかで立ってみたり坐ってみたり、行ったり来たりする世話もない、(佐藤春夫『極楽から来た』)808 恋猫の二つの耳と二つの目 京鹿…

木魚歳時記第4143話

第十八章 西山のほとり(一)永年の悩みから解放されて千行の涙を惜しまず流した法然の眼には天地が光明に満ちて見えた。それもただの日光や月光ではなく、弥陀の無量光が遠く西方から来てさすもののように思えて、有難さと喜びとは限りもなかった。(佐藤春…

木魚歳時記第4142話

その年の盆の十五日、船岡野には法に捧げて身を焼いた上人を讃嘆して、上下群衆を成して見たと評判が高い、衆生はこのとおり道を求めて焦心している。(佐藤春夫『極楽から来た』)806 母さんの尻につかまり草団子 「ボクの細道]好きな俳句(1888) 野見山…