2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記第4710話 

当時の人の観念としての斎宮も斉院も神に嫁ぐのだから、室に入っては神の妻として奉仕するというわけ。従って一身の貞潔を旨とするものであった。斎院の初代嵯峨天皇の有智子(うちこ)内親王はすこぶる史記漢書に渉(わた)り、兼ねて画と詩文に達して居ら…

木魚歳時記第4709話 

斎王は河水に臨んでみそぎを修して後、厳粛な儀式で初斎院に入り、三年間、初斎院で潔斉し、更に吉日を選みみそぎをして紫野の斉所の宮に入る。当日は斎王の乗輿が先ず禊所に向かい、京職、山城国司らが慎んでこれをお迎えし、勅使大納言以下供奉して初斉院…

木魚歳時記第4708話 

斎院は京都市の北部町つづき、加茂神社の西、有栖川の畔(ほとり) 、紫野にある。 斎院のト定(ぼくじょう)に当たった内親王を斎王(さいおう)と称して、この決定は参議以上の勅使によって加茂の上下両社に申告せしめられて、同時に宮城内に初斎院を設け…

木魚歳時記第4707話

由来、斎宮は、御成婚に困難を伴いやすい内親王の御降嫁に代えて、婚家として神社を選ばれたわけだから、斎宮には内親王の御生活のお料に足る荘園とこれを管理する斎宮司などの機関によって内親王の生活を保護すし奉る制度がある。ただ斎宮の地は都をはなれ…

木魚歳時記第4706話

寺院と神社との相違もあり、また全くの別の目的でもあるが、朝廷では加茂神社にも全国的に多くの荘園を営んで斎院の料とした。 斎院とは、朝家の氏神たる伊勢大神宮の斎宮に準じて朝家の産土(うぶすな)として加茂神社に設けて、その祭祀に奉仕するため未婚…

木魚歳時記第4705話

第二十九章 浄土の恋 (一)この時代、特に後白河法皇は、まことに盛大な造寺事業を続々と遊ばされものであった。これは申すまでもなく仏教に対する深い御帰依の現れであるが、また一面、造寺によってこれに付属する荘園をつくり営み、摂関家その他に属して…

木魚歳時記第4704話

頼朝は建久九年冬、相模河(馬入川のこと)橋供養の帰途、八的原(やまとがはら)という所で、滅ばされた源氏・・義広、義経、行家以下の人々が現れて頼朝と目を見合わせ、ここを過ぎて稲村崎の海上に赤い頭巾の十歳ばかりの童子が現れて安徳天皇と名乗って…

木魚歳時記第4703話

しかし四月二十二日、山徒は遂に日吉、祇園、北野三社の神輿を奉じて宮闕(きゅうけつ)に詣り、佐々木父子の死罪を請い神輿を捨てて去った。 定国はこれより先、既に逐電していたから、宣旨を頼朝及び近畿諸国に下して定重を捕えしめ、はじめは父子を流罪に…

木魚歳時記第4702話

この時、法皇は熊野詣での途中で居らせられたので、使いを走らせて事を奏し、一方ででは一条能保と大江広元とが脚力をもってこれを鎌倉に告げた、近江佐々木は源氏の一族で鎌倉の重臣の一人だからである。 頼朝は梶原景時を都に送り来て、もし定綱の罪科が遁…

木魚歳時記第4701話

この報復として定綱の京都住宅を焼こうとする風聞に関白九条兼実は、座主顕真をして衆徒の暴動を喩止せしめた。延暦寺の所司三綱、日吉宮司らが兼実邸に来て事情を訴えたところによると、佐々木荘の未進を責めると、住民ら自身で火を住宅に放ち、宮司らがこ…

木魚歳時記第4700話

折から近江の総追捕使佐々木定綱は在京中で、その子定綱が在国であったが、佐々木荘では去年の水害のため未進であったのを、山徒の宮司がこれを責めること急であった。遂に火を放って近辺の人家を焼失した。定重の郎党らが出てそれを防ぐうち、争いとなって…

木魚歳時記第4699話

事実、神仏やその他人間の権威の繋縛(けばく)から免れて個人の自覚に立といった法然の言葉を、地の近いため多くの集まり会していた近江佐々木の一党の末裔が、真意を解してか誤ってか、法然の清水の説法の直後に起こした事件であった。 建久二年三月、叡山…

木魚歳時記第4698話

(五)法然上人をして、この人は前世で仏に逢った事があろうといわせた仏性の熊谷直実は、法然上人に会った直後、鎌倉に帰って、頼朝に会い、念仏の徳と浄土とを説いたが、頼朝は耳を傾けなかった。 頼朝は既に清水で法然の説法を聞いていたが、疑いと憎しみ…

木魚歳時記第4697話

疑いと憎しみとが第二の天性となって彼の英邁(えいまい)の資を傷つけ歪め、余憤の発するところ、わが手足のような弟や功臣を罪なく殺して殺害し、自ら滅びの道を拓(ひら)き進むような結果となったのであろう。精神分析家が格好のテーマであろう。気の毒…

木魚歳時記第4696話

彼は父をだまし討ちにした長田父子を捕えて、彼らが父を殺す下心で三、四日饗応した返礼に、よく働け、働いたら恩賞を与えようぞといって義経、範頼の手につけて、木曽征伐から一ノ谷、屋島の戦いまで、汗みずくに働かして置いた揚句の果てに、褒美として、…

木魚歳時記第4695話

頼朝は一身の幸運を天に感謝する以上に、父の死に対する憤りの方が大きかったのも無理はない。彼は世を恨み、人を憎み、天に憤った。そうしてたまたま生き残った一身を、誓って復讐の鬼とした。 頼朝は決して地獄から来たのではなかった。しかし、父の死を知…

木魚歳時記第4694話

しかし彼が生死の間を彷徨(ほうこう)する間に、彼を最も愛した父義朝は殺された。それも失意のどん底にあって、やっと辿りついた家重代の家人の一族の家に入って表面は非常に歓待のうちに、敵に売り渡す目的でだまし討ちにされて死んだのである。もし父が…

木魚歳時記第4693話

頼朝はすでに記した如く、平治の乱に敗れて後、二人の兄とともに父義朝や家臣たちに伴われて関東に逃れる途中、十三歳の足弱は雪中で一行に取り残され、道に迷った末は凍死か戦死かという一歩手前で救われながら、恩賞を目的とする人々から落人(おちうど)…

木魚歳時記第4692話

頼朝は本来、目的のためには手段を選ばず権道を行き、また事毎に人々を疑い、憎しみによって人生を処理する人であったろうか。もし然らば、彼は一議なく地獄から来たに相違ない。しかし彼には自分の過去の罪を自ら処罰するだけの潜在意それを識もあり、彼の…

木魚歳時記第4691話

大姫は亡夫と亡児とを慕うあまりについに気鬱症を発し、再婚を強いるならば淵川に身を投げるばかりと駄々をこね通した末、精神錯乱のうちに死んだ。たとい一時の戦略にもせよ、婿とした者や孫を殺した報いに愛する大姫がこの始末である。(佐藤春夫『極楽か…

木魚歳時記第4690話

(四)頼朝が、義仲の子清水の冠者(かじゃ)義高を長女大姫の婿に取ったのは義仲を油断させるための戦略に過ぎなかったから、後は範頼、義経に命じてこれを討ち取らせた。さて義高の死後はその子をも屠(ほふ)って、大姫を一条能保(よしやす)の子高能に…

木魚歳時記第4689話

文覚の顔を立てて一度斬ることをやめた維盛の子六代が、僧として行いすましているのを捕えて頭は剃るとも心は剃るまい殺させたは頼朝自身の死の前年であった。せっかく助けた六代を二十年近く後に殺さねば気のすまなかった頼朝は、むかし出家するといって平…

木魚歳時記第4688話

また範頼の臣当麻太郎が頼朝の勘気に触れた主人の身の上を案ずるあまり、義経の堀河邸の先例もあることではあり、夜討ちでもかけられはしないかと、ようすをさぐるため、自発的に頼朝の寝所の床下に潜入していたのが発見され、当麻が名の聞こえた勇士であっ…

木魚歳時記第4687話

兄の甚だしい誤解に驚き懼れた範頼は、決してそんな不忠などは存じ寄らぬと神に誓って差し出した起請文に署名するとき、鄭重(ていちょう)に念を入れたつもりでうっかり源範頼と記したのを、「源とは一族の気か、過分千万、怪(け)しからぬ奴」 と、とがめ…

木魚歳時記第4686話

その時、範頼は、「たとえ、兄上にに万一の事があろうとも、ここの範頼がひかえて居る以上、幕府は安泰です。ご心配は決してご無用」 といったのが、無事に帰って来た頼朝には気に入らなかった。頼朝には範来が幕府を奪おうという下心あるように聞きなされた…

木魚歳時記第4685話

後年、蘇我兄弟が富士の巻狩りで父の仇を討った時、鎌倉には蘇我の五郎が頼朝の寝所に襲い入り、危害が頼朝ににも加えられたように誤り伝えられたため、頼朝の北の方政子が、夫の身の上を、ひいては幕府の将来を案じわずらうのを慰めて、(佐藤春夫『極楽か…

木魚歳時記第4684話

また同じ異母弟範頼を殺したに至っては、いかな頼朝びいきの露伴とても弁護の余地はなかった。 範頼は義経のように鋭い才分の人ではなく、ごく温順な兄思いの人物であった。それで叔父行家の追討を頼朝から命じられると、その討つべからざる情理を説いて叔父…

木魚歳時記第4683話

(三)討たずもがな、殺さずもがなの、藤原氏であり、義経であったが、これを討ち、これを殺したのは、頼朝のために弁護することもできる。しかし、わざわざ静御前を呼び寄せて義経との間の子まで由比ヶ浜に投げ込む必要はあるまい。伊藤祐親(すけちか)に…