2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記第4830話 

法然はまた式が子内親王を思い出した。式子内親王が内にこもって歌にしか現せないものを、この人はじかに言葉にして吐き出し、しかも卑しくない。これは有りがたいことである。と法然は好もしく聞いてありがたいことですたのを善信は知らない。(佐藤春夫『…

木魚歳時記第4829話 

「喜んで、これをしとねに引き入れようと手を延ばしたところで夢はさめました。わがあさましい欲望がこんな夢を見せたものでしょうか。それとも本当に救世観世音の誓願の趣旨なのでしょうか」 法然はこの若い客人の質問を海が河川を呑むような自然な態度で受…

木魚歳時記第4828話 

夢は六角堂、ご本尊救世(くぜ)観世音が一夜、玲瓏(れいろう)たる玉女となって参籠中の彼の枕もとに現れ、「善信よ、そなたは宿報によって女犯(にょはん)せずには生きられない身である。それを憐み、我は今ここにこの玉女となって現われ、そなたによっ…

木魚歳時記第4827話 

さて数日間、彼は吉水僧庵の客人(まろうど)であった。法然が彼をとめたのである。客人は一日で師と仰ぎ定めた法然に向かって、六角堂参籠中の一夜のなやましくもあさましい夢を、この人にこそ明かそうとくわしく語った。(佐藤春夫『極楽から来た』)1460 …

木魚歳時記第4826話 

第三十二章 破戒の聖僧 (一)建仁(けんにん)元年の晩春、六角堂百ヶ日参籠の九十五日目の暁、夢想のままに、当時、善信といって慈円門下に在り、叡山根本中道の堂僧をしていた二十九歳の親鸞が、聖覚の手引きで吉水に伴われ、はじめて法然に会ったとき、…

木魚歳時記第4825話 

そうして今までは、源空等の勧むる所はあながち罪業にはあらず、しかし衆徒らが訴えのある以上は、何とか宣下せずばなるまい、しかし念仏停止の宣旨によって、もし信心の者一人たりとも志をひるがえすことあらば、これまた罪業である。よくよく用心すべしと…

木魚歳時記第4824話 

松虫、鈴虫の二女は粉河寺にあって道心堅固に念仏修行をしていたが、その後の安楽房や住蓮房の消息を知りたさに上洛して、彼らが死刑のの事を知り二女は相携(たずさ)えて鹿谷(ししがたに)に赴き、安楽寺庵室の前に後追い心中をして果てたのは、いよいよ…

木魚歳時記第4823話 

熊野から還御あらせた後鳥羽院はお気に入りの松虫、鈴虫の後宮に見えない次第を聞こしめして安楽房、住蓮房を捕えしめ難詰させ給うた。折から江州馬淵に布教中の安楽房は召し捕えられて、翌年四月十一日、江州馬淵で死刑となった。住蓮房もまた、賀茂川の六…

木魚歳時記第4822話 

彼らはともに美声で、その六時礼讃の声はあたりの静かな山林に響き聞こえるのが、付近の人々の聞きつけるところとなり、やがてその噂が市中にまでひろがって行き、この修法がいつか都の名物ようになった。 六時礼讃は、別に定まった節拍子とてなく、おのおの…

木魚歳時記第4821話 

彼らは俊寛僧都の住んでいた鹿谷(ししがたに)のもとの法性寺が僧都の鬼界島で寂して後、無住の廃寺となって狐狸の棲むにまかせていたところに二人で同住して、寺名を安楽寺と称して念仏称名に余念もなかったが、それでもなほ足らず別時(べつじ)念仏とし…

木魚歳時記第4820話 

法然門下の安楽房、住蓮房はともに立派な武士の出で親類同士でもあり、また無二の親友で、後白河法皇崩御の後、御菩提のために八坂で念仏会を修したり、また同門の隆信の死に際しては師命によってこの朝臣の善知識となったり、常に協力して道のために尽くし…

木魚歳時記第4819話 

(五)摂政は良経に代って猪隅家実(いのくまいえざね)がなった。こういう思いがけない椿事(ちんじ)出来などもあり、もともと面倒な裁きがいつまでもはかどらないところへ、ここにまた一つ事件が持ち上がって、はからずもこの裁きをきっぱりと促進するよ…

木魚歳時記第4818話 

摂政良経は時に三十八歳であったが、詩歌に長じ、また書画の両道にも達して、高雅に風流な人品は、さすがに摂関家の人にふさわしく、当年政界の第一人者として上皇のおん覚えは特にめでたく、良経の死は上下一般の驚きと悲しみとが異常であったなかでも上皇…

木魚歳時記第4817話 

しかしわたくしは前後の事情を考え合わせて良経の死を、どうやら僧兵の仕事のような気がする。その四、五年前に九条家の強敵土御門通親がが怪死しているのはどうも毒殺らしく、これには間接に慈円の手が動いているやに疑われるものがあるから、良経の暗殺は…

木魚歳時記第4816話 

これは当年の迷宮入り事件として遂に犯人は挙がらずじまいで、兼実の政敵がせっかく政界から追いすくめた九条家が良経によって再び政界の中心に進出するのを妨げるための暗殺のように見られて、その方面は八方手を尽くして犯人をさがしたが遂に見つからなか…

木魚歳時記第4815話 

三十日、安楽、法本の二人を明法博士に下し罪名を勘(かんが)えさせている間に摂政良経が怪死した。 三月七日の夜、中御門京極殿に忍び入った怪盗が安眠中の良経の胸部に天井から手槍を投下して殺害したものである。(佐藤春夫『極楽から来た』)1447 少年…

木魚歳時記第4814話 

長兼がこの趣を良経に具申する。良経は彼らのいうところは毛を吹いて疵(きず)を求めるものだとしぶしぶながら奏上すると、朝廷では先度の宣下は衆徒の趣と異なる所なく、綸言(りんげん)は汗の如く改め難いが、仏法興隆のための訴訟とありまた先度の宣旨…

木魚歳時記第4813話 

源空は仏法の怨敵(おんてき)である。その身柄及び弟子の安楽、成覚、住蓮、法本らを罪科に行われたい、改めて源空の罪を数え立て、念仏衆の六字名号(すなわち南無阿弥陀仏)の停止と法然房源空の処罰をとを重ねて強く要求して来た。(佐藤春夫『極楽から…

木魚歳時記第4812話 

長兼は使者と問答して彼らの疑念を申し開きし、職事が宣旨を下す習いとして、一言半句とて勅諚(ちょくじょう)にないことは載せない。これを衆徒らが私の詞を加えたように邪推している。蔵人頭に補せせられて既に五代を経た重大奉公の家としてそれ程の事を…

木魚歳時記第4811話 

(四)衆徒らは三条兼実が念仏宗を庇護すると疑い、宣下の趣は訴訟の本意と違うと、二月二十一日、興福寺の主だった役僧たちが、摂政京極殿良経(九条兼実の次男)の邸に出かけて訴えたが、良経は、これを受け付けず、長兼を経て申し入れと追い返した。(佐…

木魚歳時記第4810話 

蔵人頭としてこの事を奉行した三条長兼は、その日記『三長記』(さんちょうき)に、この時の感懐を「この両人の操行たとえ不善なりと雖(いえども)、勧(すす)むる所は念仏往生の義なり。此事によって罪科を行わるるは痛哭(つうこく)すべし。この時に当…

木魚歳時記第4809話 

興福寺の訴えの出た翌年の二月十四日、朝廷では、ついに院宣を下して処罰することになり、法本房行空、安楽房遵西を召し進ぜしめて彼らを配流1 。 遵西は有力な念仏の宣伝者であり、行空は義の一派で操行上の欠点が多かったらし い。この二人を代表的に処罰…

木魚歳時記第4808話 

いつもは仲の悪い南都が北嶺と歩調を合し、言外に北嶺の第一矢につづいて二の矢を射かけたことを語り、慈円が南都に働きかけたことを明かしている。慈円の法然に対する反感は、その著『愚管抄』の随所に現れているとおりだからこの想像に誤りはあるまい。(…

木魚歳時記第4807話 

外聞にかかづらうなかれといって、その後も一向に邪見を改めないという、今度とてたとえ怠状(たいじょう・謝罪文)を出しても同じであろう。奏事の不実に、罪科はいよいよ重い。たとえ上皇の叡旨は如何なるりとも明臣の諫言(かんげん)はなくてはかなわぬ…

木魚歳時記第4806話 

興福寺奏状はこの九ヶ条の失を数えてそれを説明した訴状に副えて奏状一通を奉り、それには朝廷は源空らの起請文だけですまそうとしているらしいが、叡山の衆徒たちはこの処置にあきれている。源空の門弟たちの道俗に告げたところでは、上人の詞(ことば)は…

木魚歳時記第4805話 

これらは天台の学生、真言の行者、もしくは諸経を持し神咒(じんじゅ)を誦しまたは念仏以外の前根を造る者に対する光明で、仏の光明が真っ直ぐに来てこれを照らし浴せしめているのは専修念仏の衆ばかりであるのを示したものを非難攻撃しているので、まるで…

木魚歳時記第4804話 

というのは、摂取不捨曼荼羅(せっしゅふしゃまんだら)と名づけられた念仏宗の漫画的ポスターともいうべきもので弥陀の前に多くの人があって仏は光明が放射しているがその光明があるは横にそれを曲がって照らし、あるいは来ても本(もと)に引き返している…

木魚歳時記第4803話 

(三)貞慶の筆になる興福寺奉上状は専修念仏宗の九ヶ条の過失を次の如く教えた。 一は新宗を立つる失 六は浄土に暗き失 二は新像を図する失 七は念仏を失 三は釈尊を軽んずる失 八は釈衆は損ずる 四は万善を妨ぐる失 九は国土を乱る失 五は霊神に背く失(佐…

木魚歳時記第4802話 

叡山からは更に奏状を奉って、念仏の停止、念仏者の追放を請うた。つづいて元久二年十月、興福寺の僧綱大法師らが源空並びに門人を罪科に処せんこと事を謂う奏状を奉った。この文が笠置の貞慶の作なのである。(佐藤春夫『極楽から来た』)1436 短夜の脳にざ…