2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記 第3536話

「まるでお日さまみたいですね」「そうだ、それとも人間の良心とか愛情とかいう千古を貫くべき人間性または人間のたのもしい精神そのもののことなのかも知れないね」(佐藤春夫『極楽から来た』)239 三尸なほ天を窺ふ初庚申 三尸(さんし) 「ボクの細道]…

木魚歳時記 第3535話

「それで無量光仏(むりょうこうぶつ)とか無量寿仏(むりょうじゅぶつ)とか申すのがこの仏さまのほんとうのお名まえで、その無量の光と寿とで、むかしむかし大むかしの劫初(こうしょ)から今日まで生きて、また尽未来(じんみらい)の末の末まで生きつづ…

木魚歳時記 第3534話

「その光明が無量で十方(じっぽう)世界の国々を照らして何ものもさえぎることのできない力があり、またこの仏さまもこの国の人々もみな無量の寿命を持っていついつまでも決して死ぬことがないから無量と申すのだ」(佐藤春夫『極楽から来た』)237 訛声の…

木魚歳時記 第3533話

「さればさ、極楽をお聞きなされたのは現にその国でお説教をしてござるというそのアミダさまという仏さまなのだ。この仏をアミダと申すのは、」(佐藤春夫『極楽から来た』)236 北側のかたく冷たい飾窓 「ボクの細道]好きな俳句(1284) 中村草田男さん。…

木魚歳時記 第3532話

「ほう、これはまたすばらしくゆゆしい発願(ほつがん)だの。少年の志は大きく望みは高いのがよい。その志を忘れずに努めなされよ」(佐藤春夫『極楽から来た』)235 稀覯本ひらけば青い咳が出る 稀覯本(きこうほん) 「ボクの細道]好きな俳句(1283) 中…

木魚歳時記 第3531話

「ところでお師匠さま、そんないい世界をどなたがどうしてお聞きなされたのでしょうか。わたくしもその世界を聞きとうございます」(佐藤春夫『極楽から来た』)234 十二月好いも悪いもなむあみだ 「ボクの細道]好きな俳句(1282) 中村草田男さん。「冬の…

木魚歳時記 第3530話

「わが身ながらに好ましくない。そなた極楽に生きる工夫をしてみなさい。そなたはまだ春秋に富む少年だ。志を立てて生活のうちにその工夫を成就するように心がけなさい」(佐藤春夫『極楽から来た』)233 笑点の「談志が死んだ」虎落笛 虎落笛(もがりぶえ)…

木魚歳時記 第3529話

「わしにも自然世界はもうぼつぼつ美しくたのしいものに見えてよろこばしいが、人間生活は到底そうは見えないのだ。人間はあさましく腹立たしい生き物だとわしにこう見えるのは、」(佐藤春夫『極楽から来た』)232 満月や話をするなもの食ふな 「ボクの細道…

木魚歳時記 第3528話

「実相を見抜きながらも眼前のものみな美しくたのしく思える心境に生きるのを、わしは極楽と観じている」(佐藤春夫『極楽から来た』)231 雪ですか雪でないです月光です 「ボクの細道]好きな俳句(1279) 中村草田男さん。「万緑の中や吾子の歯生えそむる…

木魚歳時記 第3527話

「人は生きるのが本当だ。わしはまだ死なない。死ぬのはまっぴらだ。生きるのだ。その生き方だ、いずれは死ぬる身と知りながら信仰をもってたのしく生きる心境に達する工夫だ」(佐藤春夫『極楽から来た』)230 ポリープの一つや二つばつたんこ 「ボクの細道…

木魚歳時記 第3526話

「行きたいものですね、都へ修行に行くよりも、もっと早く、是非行きたいと思います」「わしも永年行きたいと思っているが、まだ極楽往生できないでいるよ。さっきもいうとおり、極楽往生というのは死ぬことではないぞ」(佐藤春夫『極楽から来た』)229 色…

木魚歳時記 第3525話

「人を殺したりありませんね」「そうさ、口あらそい一つないんだ。人々は長口舌(ちょうこうぜつ)といって無上の雄弁力をそなえ、また言論の自由もある国だが、人々はみな柔和な笑顔で暮らしている。自由と平和の国だからね。そんなところへ行って住みたく…

木魚歳時記 第3524話

(四)「お師匠さま、何だかこの上なく楽しそうないい話ですね」「そうだ、極楽だもの。まだまだいろいろ結構なことがどっさりあるのだ。いや、そこはその名のとおり結構づくめなのだ」(佐藤春夫『極楽から来た』)227 毛虫焼くさて眼耳鼻舌身意 「ボクの細…

木魚歳時記 第3523話

ここの国の音楽は白拍子(しらびょうし)や少女歌手たちがひとの餌食(えじき)となって聴衆の劣情にこびたり、名を争う作曲者が卑俗な曲をものして風俗の乱れをも構わぬのとはわけが違う。 この点、現代のラジオやテレビの番組とは似て非なるもののようであ…

木魚歳時記 第3522話

また街路樹にそよ風がわたるとその宝石の葉がざわざわ触れ合って種々な音色を合せかなでて、この合奏楽を聞く者は正しく生きる力の喜びを得られる。(佐藤春夫『極楽から来た』)225 尺蠖のねじれ漫歩やDNA 尺蠖(しゃくとり) 「ボクの細道]好きな俳句…

木魚歳時記 第3521話

これらの鳥は前世の罪によって畜生に生まれ変わったのではない。もともとこの国には罪悪などというものは無いからその報いとてあろう道理もない。ただアミダブツがこの国の人々に正しい心を得させる手だてとして歌を愛する者を神通力(じんつうりき)によっ…

木魚歳時記 第3520話

その声は人に生きる力や善美を愛する念を起させる。それ故、この国の人々は、その声を聞いて国土の愛すべく法の尊ぶべく、人々の和すべしを自然に悟るのである。(佐藤春夫『極楽から来た』)223 本尊は秘仏におはす蝮酒 「ボクの細道]好きな俳句(1271) …

木魚歳時記 第3519話

「この国には白鵠(びゃっこう)とかくじゃく、おうむ、舎利(しゃり)、カリョビンガ、共命鳥(ぐみょうちょう)などという奇妙に色の変わった鳥が多く住んでいて、それが日中三度、夜中三度、やさしくあもしろい声で歌う。(佐藤春夫『極楽から来た』)222…

木魚歳時記 第3518話

極楽はこんな文化国なのである。もっとも他心智などはここでは無用の長物として人々の笑い草にしかすぎなかった。というのはここではウソをいう必要もなく何ら他にかくさなければならない秘密もなかったからである。ただ他の国に行った時にだけその重宝なこ…

木魚歳時記 第3517話

この国ではまた天耳通(てんじつう)と呼ばれるラジオがあり、また天眼通(てんげんつう)と呼ばれたテレビもあり、別に他心智(たしんち)というウソ発見機以上のものも各自にそなえていた。(佐藤春夫『極楽から来た』)220 定食にたどりつきたる金魚かな …

木魚歳時記 第3516話

この人々が朝食ともいえない朝食前に、十万億の仏国の諸仏を供養してすみやかに帰ってくる大仕事をできるというのも、彼らは個々に飛行能力を持っていた。それは神足(じんそく)という最も精巧なヘリコプターにもまさるものであった。(佐藤春夫『極楽から…

木魚歳時記 第3515話

というのは、この世界では空気や水のなかにすべての栄養素があるから、特別に飲食の用意をする必要もなかったのである。こうしてこの国の人々の一日が楽しい朝の散歩をかねた朝食ではじまるのである。(佐藤春夫『極楽から来た』)218 炎天を裏から剥す悉皆…

木魚歳時記 第3514話

極楽の人々は、朝早くから、花を盛る器を持ち出し、それを満地の曼荼羅華を採り持って、アミダ仏を初め十万億といわれる他の世界の諸仏たちに供養をささげたのち、すみやかに極楽浄土に帰って来て、七宝樹林の並木のなかを散歩して朝食をとる」(佐藤春夫『…

木魚歳時記 第3513話

「このアミダブツの極楽国(ごくらくこく)は天然の微妙な音楽が絶えずながれひびき、大地は黄金延べ(別に大地を瑠璃と説くのもあるが、これはこの国の半ばを占めた、水を大地と見てのことで別にむじゅんはない)ここでは一日に夜明け、日中、日のくれ、宵…

木魚歳時記 第3512話

どちらにせよ住宅はすべて国営だし、貨幣制度のないこの国では家賃などというものもない。住宅難の結果はぶた小屋のようなうら長屋にも月々大金を払うことを思えば、これだけでも、極楽はたしかに楽しい国に相違ない。(佐藤春夫『極楽から来た』)215 うし…

木魚歳時記 第3511話

(三)貴賤の別もなく、資料に余りのあるこの国では、家々は建築家の楽しみ仕事としてみな王宮なみの金殿玉楼造りが多かったが、なかには建築家の好みでごく質素なものもあり、それはまたそれで美しかったから、好んでそれに住む趣味の人もいた。(佐藤春夫…

木魚歳時記 第3510話

家々には看板などというものは一つもないらしい。ここではインチキなものを売って金をもうける必要などないためであろう。極楽はそういう真善美の世界で、仏教のユートピアなのである。(佐藤春夫『極楽から来た』)213 銀蠅の腐りつゝある食品庫 「ボクの細…

木魚歳時記 第3509話

池に臨んで水面にさし出た楼閣がある。池の中には車輪大の蓮の花が咲いて青、黄、赤、白とそれぞれの色に光照りそい、目もあやに香気はほのかにすばらしい。この花というのはただの花でではなく、仏教の(すなわち真理の)端厳、荘厳を象徴して咲き出したも…

木魚歳時記 第3508話

そうして、家々には七宝の池があって、なかは清らかにすがすがしく澄み、ひんやりと甘美で静かにとろんであふれ狂うこともなく目を楽しませる水がなみなみとたたえられて、底には沙金が布(し)かれ、四方には金銀瑠璃玻璃(こんごんるりはり)をまぜ合わせ…

木魚歳時記 第3507話

浄土はどうも水国のようである。それ故に岸を七重の欄干や防波堤などで築きかためて水を護り、また岸や運河沿いの街路樹は完全によく育って、そのゆたかな茂みは日を浴びて宝石のようにかがやいている。(佐藤春夫『極楽から来た』)210 ぱらぱらと蟻こぼれ…