2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

木魚歳時記第4487話

法皇もまた、以仁王よりも高倉天皇に対する御愛情とまた義仲という紐(ひも)のあるために、高倉天皇に皇子がある以上、親王でもない以仁王の遺弧を位に即(つ)けるべきではないという御意嚮(いこう)で、すでに御内定の四の宮尊成(たかひら)親王を八月…

木魚歳時記第4486話

しかし義仲のそんな純情は知る人もなく、人々は専ら、義仲がわがために天子を擁立して、その下に清盛のような権勢を握り、横暴を働こうとしているとしか感じなかったのでもあろう。廟儀(びょうぎ)は「王者の沙汰は人臣の議する限りに非ず」と義仲の提案を…

木魚歳時記第4485話

義仲としては以仁王の令旨で起こって平氏は追撃されたのであり、また以仁王は国事に殉じて薨(こう)ぜられた酬いをその遺弧が受けるこそ当然だいう理屈で、また表にこそ出さね、その心中では幼少で父君を失われた御子の御境涯にわが身の上を感じて共鳴深く…

木魚歳時記第4484話

というのは、折から院では平氏が安徳天皇を擁して西海に落ちている間に、院として別に天皇を立てるつもりで高倉天皇の四の宮を内定しながら、神器が平家の手にあるためそれの奉還を平氏と交渉して手間取っている間に、義仲は陣中にお迎え申していた以仁王の…

木魚歳時記第4483話

彼らは得々として狂暴を働き、全くの無警察状態を現出し、それが日に日に昂じて来る有様であった。都民たちはみな眉をひそめて、あたりをはばかる声もしめやかに、「これはまたかわった源氏が来てくれたもので」「まるで悪魔羅刹(らせつ)のような」 などさ…

木魚歳時記第4482話

また都内では、所を選ばず見さかもなく闖入(ちんにゅう)して財宝を徴発し、これに応じなければ略奪する。時を選ばず民家に押し込んで酒食を強要して牛飲馬食の果ては乏しい食糧を強奪して帰る。 では追はぎ強盗ばかりか、婦女を捕えて戯(ざ)れかかり、時…

木魚歳時記第4481話

また都内では、所を選ばず見さかもなく闖入(ちんにゅう)して財宝を徴発し、これに応じなければ略奪する。時を選ばず民家に押し込んで酒食を強要して牛飲馬食の果ては乏しい食糧を強奪して帰る。 途上では追はぎ強盗ばかりか、婦女を捕えて戯(ざ)れかかり…

木魚歳時記第4480話

(二)義仲、行家の率いた兵どもは都に駐屯の日が永くなるにつれて精力があふれ、また鬱屈(うっくつ)にたえなくなってか、大挙して近いあたりの田圃(たんぼ)に馬を乗りいれては、未熟の稲を刈り取りもしくは生えたままを馬の飼料にする始末で、その地域は…

木魚歳時記第4479話

平家都落ちの三日目の六月二十六日、義仲と行家とが軍を率いて南北から入京すると、法皇は彼ら二人を蓮華王院の御所に引見された。ところが彼らは参入にあたって、順位を争い前後して入るを好まず、結局両人並んで参入したため、この田舎大将どもの間に早く…

木魚歳時記第4478話

ところが都では先年来の不作に運上も満足になく稀にある運上もすべて途中で奪い去られて全く物資欠乏の折から、せっかくの入城の勇士たち、それも幾万という大勢をねぎらい歓待すべき何物もない。兵は途中を行軍した田園よりも不自由な食糧に、これを都人の…

木魚歳時記第4477話

彼らは長途(ちょうと)の行軍に倦(う)み疲れ、途中は満足な食料もなく餓えていた。都に入城して十分に飲み食いできるのを夢想し楽しみつつ潮のように殺到した彼らであった。(佐藤春夫『極楽から来た』)1126 花は葉に血中酸素欠乏症 「ボクの細道]好き…

木魚歳時記第4476話

すべての軍隊が大都市に入城すれば必ず狂暴になるというのが、古今の通則のようであるが、義仲の軍は特にそれが甚しかった。 無に 兵のすべてが辺地に生まれた田舎育ちの若者たちで日ごろ都にあこがれながら、田舎者というひけ目も感じている。(佐藤春夫『…

木魚歳時記第4475話

この破竹の勢いに驚いた平氏が周章狼狽(しゅうしょうろうばい)して海上に逃れ去ったのも決して無理ではない。陸戦ではとうてい及びもつかないから、では水軍でこいとばかり、身をかわしたわけである。(佐藤春夫『極楽から来た』)1124 春の川蟹が店出すチ…

木魚歳時記第4474話

挙兵後僅かに一年有半、頼朝が地元東軍の地固めや院との外交折衝に空しく日を費す間に、義仲の軍は長躯して、どの源氏よりも早く都に攻め入った。(佐藤春夫『極楽から来た』)1123 右翼越え大飛球かな山笑う 「ボクの細道]好きな俳句(2214) 松本たかしさ…

木魚歳時記第4473話

かくて義仲の軍は例えばコサックのごとく、またジンギス汗の軍のように有力な騎兵集団を形成して起ち、直ちに東山を風靡し北陸地方を踏破し斬り従えた。(佐藤春夫『極楽から来た』)1122 音もなく世代交代山笑う 「ボクの細道]好きな俳句(2213) 松本たか…

木魚歳時記第4472話

総じて東国の兵は、将はもとより卒にまでが騎兵で、この点、平氏がはじめは将のみが騎して卒が歩であったのに対比して、その機動力に多大の相違があり、やがて勝敗を決定する原因の一つとなったものであるが、佐久の平野は古来名馬の産地であり、望月氏は信…

木魚歳時記第4471話

第二十四章 源平走馬灯(一)義仲の父は帯刀先生(たてわきせんじょう・武装舎人隊の長官)の任にあった源義賢(みなもとのよしたか)で、義朝の弟、為朝の兄であるが、所領の争いから(?)義朝の子悪源太義平に討たれた時、二歳の義仲も父とともに殺されよ…

木魚歳時記第4470話

はじめは、知盛、重衡、通盛、教経ら各部署を分かって防御態勢を整えていた平氏も、味方と思った山門が急に義仲に同心したと知るや、防禦を解いて一門は安徳天皇おん母子と神器とを奉じ、六波羅に火を放って西海に落ちて行った。法皇はこの時平氏の手を逃れ…

木魚歳時記第4469話

勝ちに乗じた義仲は長躯(ちょうく)して都に向かう。総数六万騎。まず美濃にいた叔父の行家と連絡して力を協(あわ)せ、義仲は近江、行家は大和方面から京都に進撃し、義仲の一支援六千騎が叡山を占拠すると山門の衆徒三千もこれに同心した。(佐藤春夫『…

木魚歳時記第4468話

山頂に倶利伽羅(くりから)不動明王の祠堂のある峠は倶利伽羅峠と呼ばれていたが、義仲はここの夜戦に、牛千五、六百頭を集め角にたいまつを結びつけて、敵陣の背後から鞭うって追い入れ,鬨(とき)をつくって攻めたてると、平氏の軍はこの奇計のの不意打…

木魚歳時記第4467話

木曽冠者(きそのかじゃ)義仲はこのころ、越後に攻め入って城長茂(ながもち)を討ち破り、進んで越前に平通盛を破った。平氏は清盛を葬り終わるのを待ちかねて維盛以下、通盛、行盛、知度、経正らが大軍をひきいて北陸の同族を授けて出向いたが、加賀と越…

木魚歳時記第4466話

世人は高熱に悩んだと聞く清盛の死を大仏殿炎上の仏罰のようにいうのであった。 藤原氏の瓦解(がかい)を道長の死に因るように、平氏の滅亡も、その大黒柱であった清盛の死に因るもののように見える。重盛が父に先立って他界していたのも平氏の不遇であった…

木魚歳時記第4465話

浄海入道清盛の病気は傷寒(しょうかん・腸チフス)のようなものであった。高い熱がつづき時々は「あた、あた(熱い熱い)をいいつづけて七日の後、治承五年(養和元年)閏(うるう)二月四日、急に六十四歳の生涯を終わった。(佐藤春夫『極楽から来た』)1…

木魚歳時記第4464話

それで宗盛では政権を永く保つことはできず、やがて藤原氏や源氏などの宿的に奪い取られて、その風下に立つ一族の未来を考える不安につけても、法皇が再び天下の大権を執られせられるのを喜び、子孫は父祖の郷国に帰って平和に安住するのを祈り望んでいた。…

木魚歳時記第4463話

はじめは単純な風気ように見えた清盛の病気は、はかばかしい回復も見せなかったので、重盛の弟宗盛を五畿内、伊賀、伊勢、近江、丹波の「総管」に任じて国々を「総領」させることにした。それが宗盛には荷が勝ちすぎること清盛はよく知っていた。(佐藤春夫…

木魚歳時記第4462話

清盛は何を感じたものであったか、さきに遷都と同時に配流していた前摂政基房や前太政大臣師長らを召喚して、先年、法皇を脅し奉って奪い取った政権を返上し奉ろうと、「天下の政を知ろし召し賜われ」 と奏上したものであったが後白川法皇は御聴許にならなか…

木魚歳時記第4461話

このころ、木曽義仲が根井小弥太や滋野行詞親などの兵を従えて木曽から北陸の方へ進出して勢いを日に加えていた。 平氏では義仲挙兵の情報を知りながら、これを清盛の耳に入れなかった。というのは清盛はこのころ病んで病状が思わしくなかったからである。(…

木魚歳時記第4460話

同じ民心はみ子二条天皇おん孫六条天皇、そうして建春門院を、また以仁王を、今また最愛の上皇を前立たせ給うた法皇に対する靡然(びぜん)たる同情となっが、なかにはつむじ曲がりもいて、みなおん兄讃岐の院さま(崇徳上皇のこと)のおんたたりだなどとひ…

木魚歳時記第4459話

わけても福原の荒い塩風が玉体を痛め奉ったに相違ない。これもみな清盛の横暴の結果であると、大仏殿炎上のを平家の所業として憎んだ民心は上皇の崩御をまで清盛のせいにするのであった。(佐藤春夫『極楽から来た』)1108 黄砂降る寝たる姿の東山 「ボクの…

木魚歳時記第4458話

おん母建春門院の薨御(こうぎょ)このかた、おん母方平氏とおん父法皇との間に板ばさみになって、おん心安き日もなく、やがて法皇、鳥羽院の幽居には最もみ心をお悩まさせあったが、つずいて以仁王の薨去(こうきょ)、思いがけない福原への渡御、またあわ…