2019-10-15から1日間の記事一覧

木魚歳時記 第3970話

頼政ももとより恋の猛者である。小侍従の多情は百も承知で、それを面白がって源平藤橘、無差別に男から男へ順礼して恋を命に更えている小侍従をとがめたり、妬(や)いたりする気はさらさらになかった。 それでも小侍従が彼女よりも二十も年下で、頼政にとっ…

木魚歳時記 第3969話

頼政は既に小侍従にあきて、今さら自分よりも年若な彼らと勝味のすくない争いを争う気もしなかった。 前に四方の嵐として数え上げた名のなかで、内大臣久我雅通が小侍従よりは三つ四つ年上、それにしても頼政よりはまだいくぶん若い。ほこの面々と来ては、み…

木魚歳時記 第3968話

小侍従の心はとくに都に来ていたのは事実であろう。しかし果たして実定をしのぶ心であったかどうかは何人にも、おそらく小侍従自身にもわからなかっろう。実定の弟らしい大炊御門(おおいのかみ)の少将だの、内大臣久我雅道(まさみち)だの、平経盛、さて…

木魚歳時記 第3967話

君しのぶ心をまづはさきだてて身のみぞ不破の関は過ぎこし「お慕い申す心はとっくにこちらに参って居りましたのに、今になってやっと帰って参りましたの」 と小侍従の恋のかけひきはさすがに巧者(こうしゃ)であった。実定との縒(よ)りは早速にもどったも…

木魚歳時記 第3966話

実定は彼女が都に帰ったのを知ると、人には遅れじと直(す)ぐさまわたりをつけて、 みやこをば旅の空とや思ふらむ不破の関路にこころ止まりて 怨じ顔にいってやると、(佐藤春夫『極楽から来た』)641 フロントを鋭角に切る鬼やんま 「ボクの細道]好きな俳…

木魚歳時記 第3965話

(三)事実、頼政とは違って若い実定は、恋のベテランたる小侍従への未練は十分あったのだから、小侍従がそれを第一の目標にしたのはさすがベテランの目に狂いはなかった。(佐藤春夫『極楽から来た』)640 小春日の徘徊に出る夫と妻 夫(つま) 「ボクの細…

木魚歳時記 第3964話

しかし美濃へ行くと知った時、くだものかごに、 秋の宮にこのみはなほもとどめ置け四方(よも)の風はさぞさそふとも と彼女が秋の宮(東宮の春の宮に対して大宮御所を秋の宮という)を去ることを惜しみ怨(えん)じた実定を先ず第一の目標として、さそいを…

木魚歳時記 第3963話

果たしてだれのために帰ったのやらは知れたものではない。男たちはみな自分のために帰ってきたと思ったかも知れない。しかし事実は美濃へ同行した男にあきた末に、彼女は渡リ歩く相手のない田舎がつまらなくて都が恋しくなったにきまっている。然らば都の男…

木魚歳時記 第3962話

しかし頼政にあかれた小侍従は餞別として何かかたみなどと色気を持たせながらも、一ころは大宮御所を去って、別の情人とともに美濃に行ったりもしている。 しかし間もなく都が恋しくなったらしく、小侍従はふらりとひとり都へ立ち帰った。そうしてこの時は、…

木魚歳時記 第3961話

その文名と武名とに慕い寄る多くの婦女と、気まぐれにも見える幾多の交渉のあったことは『源三位頼政卿集』という彼の一家の歌集、約六百首のうちに数多く見える恋歌やその詞書きによって知られる。(佐藤春夫『極楽から来た』)636 マドンナの怪しくやつれ…