ある日、並木の下で晩春の草を引いていた熊谷を見かえった法然は、熊谷に近づき、頭をなでるかのようにいとしげにいった。
「蓮生よ、往生のほかに異事は求むまいぞ」
熊谷は師ののじきじきの言葉に身うちを雷のようなものが通り抜けて彼の邪念を打ち砕いたのを感じ、地にくず折れ伏した。
(佐藤春夫『極楽から来た』)1393
2 身に入むや真言秘密の仏たち
沙門空海(しゃもんくうかい)、すなわち、弘法大師(こうぼうだいし)さまは『般若心経秘鍵』(はんにゃごうひげん)という著作の中で述べておられます。「顕教(けんきょう)であるか、密教(みっきょう)であるかは人によるのであり、それについての意見や教義によるのではない」と。これに触発され、ぼくは「真言密教」の根本道場である高野山を訪れました。空海さまが、この聖地において何を思い、何を伝えようとされたのか・・この俳句はそんなことが動機で生まれました。