木魚歳時記第4851話

 近江路から越前を過ぎて越後に入ると雪はいよいよ深く、風物もものさびて、細長くのび、幹に凍てついた雪の白い松。赤茶の土肌も見えない屋敷地のもり上り。都人には見慣れず踏み慣れぬ雪路が幾日つづいたであろうか。今は配所も近いと追い立て役人から聞かされ励まされた夜月のあるままに次の宿まで夜道を急ぐうち、早春の夜空はかげり始め、雲が出て粗雪が降り出し風さえ吹きつのる。せん方なく、とある海沿いの一軒屋の軒下に駆け込み、宿を求めたが、戸ののぞき窓から窓から、つぶれた声を出した女はじゃけんに拒んだ。
(佐藤春夫『極楽から来た』)

                 竜天に昇るがごとき入唐僧  入唐(にっとう)      

 「竜天に昇る」は春季となります。我が国の「真言宗」(しんごんしゅう)の開祖「空海」(くうかい)上人は、804年に香川から大唐にわたり中国の「真言密教」(みっきょう)を学び、我が国の真言宗の開祖となられました。