木魚歳時記 第1883話

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貧者の一灯

 老婆が独りで住んでいました。或る時、その村にボサツさまがやって来られることになりました。そこで村のみんなは、ボサツさまが使われる灯明の油を寄進することを考えつきました。貧(まず)しい老婆もなけなしの銭(ぜに)をはたいてわずかな灯油を買うことにいたしました。「これだけの油では夜半(やはん)までしかもたない。」老婆はそう考えました。しかし、心からの供養の気持ちを込めて、ボサツさまのところに灯油を届けにゆきました。その夜のことでした。突然に嵐がやってきたのです。ところが、大風の吹き荒れる中で、大量の油を寄進したお大尽(だいじん)たちの油で灯した灯明はことごとく消えてしまいましたが、老婆の寄進した灯油で灯した灯明だけは、いつまでもいつまでも消えなかったということです。(『比喩経』)

       灯ともせば月が落ちたり涅槃図絵

            涅槃(ねはん) 写真:「西山 喬・由良展」より