木魚歳時記 第130話

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老鶯の 一啼冴えし 山こだ

<きん斗雲>の術

 その夜、弟子たちが寝静まったころ、悟空は禅師の寝所に忍びます。それというのは、禅師が居間に籠られたのは、悟空に「独りで尋ねておいで」と、ひそかに暗示されたことを察したからです。

 禅師の寝所からは明かりがもれ、半開きの扉から入ると「さすが石猿、やってきおったわい」と、禅師は歓待してくれました。禅師がおっしゃるには「まだ地面しか這えないおまえが、不老不死の術などちゃんちゃら可笑しい。まず<きん斗雲>の術を覚えることじゃ。それを伝授してとらせる」。と、こういうことでありました。その<きん斗雲>の術とは、印を結び、真言をとなえ、拳を握りしめ、からだをひとゆすり、とんぼ返りして飛び上がると、ひと飛びで十万八千里駆けるというあの秘術です。それからは四、五年修行を重ねた悟空は、禅師も舌を巻くような<きん斗雲>の達人となったのです。