木魚歳時記 第1193話

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常照寺

 昔、遊郭(ゆうかく)のあったころの話じゃ。島原の吉野大夫(たいう)といえばだれ知らぬ者のないほどの評判の花魁(おいらん)であったそうな。その吉野大夫は、大勢の誘い話があっても、ただ一人をのぞいては心をよせなんだそうじゃ。
 それは、ほんとうの恋が実らぬ遊里のむなしさを知っていたからじゃろう。その一人とは「こひそむる その行末(ゆくすえ)やいかまらん 今さへふかくしたふ心を」。の恋歌を送った灰屋紹益(はいやしょうえき)という男で、当時の文化人の一人に数えられていた立派な商人であったそうな。その後、いろんなことがあってのう。ついに二人は、吉野が三十八歳で亡くなるまで共に暮らすことができたそうじゃ。常照寺(じょうしょうじ)には吉野大夫の眠る墓が残されている。
常照寺:北区鷹ヶ峰町

      明王殿二列によぎる蟻の列