木魚歳時記第4891話

 『ただ、江口の君たちが、たってと取らせた発心(ほっしん)のしるしという黒髪の束、いずれも長くつやつやしいのを二十穂本ほど忝(かたじけな)い志と納めたほかは、わが身の物とては、この手垢だらけの木の実の古念珠(じゅず)が一つ、もめんと麻との黒染(すみぞめ)が二枚、袈裟(けさ)も由緒あるも
 のは残して来た。ここにはこのぼろ袈裟ばかり、わしはそういう乞食坊主で大切なものは命一つ。それももうよぼよぼ明日は知れぬもの、お身たち望みとあらば進ぜよう』『さあ、極楽へ引導(いんどう)しな』(佐藤春夫『極楽から来た』) 

          月光や玄奘の道どこまでも

 「月光」は、もちろん秋季となります。大唐(長安)を起点に、インド・天竺(てんじへの取經の試みは、ヒマラヤ(天山)を遥かに仰ぎ、天山南道を通過する過酷なものであったでしょう。玄奘三蔵法師(げんじょうさんぞう)の不屈の意志がしのばれます。