木魚歳時記 第126話

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訪れは 雨だればかり 額の花

補陀落(ふだらく)へ

 数日して玄猿たちは、仙酒、仙肴に珍味を並べ、香薫を焚き、瑤草(ようそう)奇花を飾って酒宴を催しました。したたか呑んで騒いで夜を明かしました。

 明くる日、さっそく美猴王は果花山を下り、家来の玄猿たちに「後のことはよろしく…」と、分かれを惜しみながら、枯れ松の筏にわずかの果物と水を積んで、北北西にあるという補陀落へ向けて、大海へと漕ぎだしたのであります。この旅たるや、まことに無謀、滑稽ながら、美猴王とはいかにも強運の猿奴でございます。追い風に恵まれ、はや四、五日もすると、補陀落らしき山峡の望めるところまでやってきたのです。
 遥かに望む補陀落は、山青きして水清し。岩石美しくて洞窟奇異「天下に景たり補陀落」でありますが、そのことはつぎに…