木魚歳時記 第3189話

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 「今日のことば」
    熊は両手をあげて叫んだ
    「おまえは何がほしくておれを
    殺すんだ。」(そこで小十郎は)
    「あゝおれはお前の毛皮と、
    胆(きも)のほかには
    なんにもいらない。」
     (宮沢賢治「なめとこ山の熊」)10

 「ボクの細道」好きな俳句(938) 大木あまりさん。「寝ころべば鳥の腹みえ秋の風」(あまり) めずらしい目線(ローアングル)で、芝生にでも寝転んで、近寄る鳩か雀のお腹を眺めていたのでしょう。それは、あまり美しいものではないとしても、普段、目にすることのないおどろきがあったのかも知れません。季語の「秋風」と調和して、ごく日常的なのどかな雰囲気が伝わってまいります。

       こほろぎの土間のどこかにたしかゐる

木魚歳時記 第3188話

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 「今日のことば」
    樹の上の熊はしばらくの間
    おりて小十郎に飛びかゝろうか
    そのまゝ射たれてやろうか
    思案してゐるらしかったがいきなり
    両手を樹からはなしてどたりと
    落ちて来たのだ。
     (宮沢賢治「なめとこ山の熊」)9

 「ボクの細道」好きな俳句(937) 小西昭夫さん。「二階へと上がってからの夜長かな」(昭夫) 二所帯同居(昔)なら、二階は息子夫婦の居間となるのでしょう。核家族化の現在では老夫婦二人のことも多い。となると、二階は「おやじ」が占拠するのでしょうか? 食う、風呂、寝る。その外に「想定外」が皆無ともなれば、二階に上ってからの「おやじ」は、一体、何をして過ごすのでしょう?

       相棒のうごきうかがふ夜長かな

木魚歳時記 第3187話

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 「今日のことば」
    (大きな熊が)
    猫のやうにせなかを円くして
    よじ登ってゐるのを見た。
    小十郎はすぐ鉄砲をつきつけた。
    犬はもう大喜びで木の下に行って
    木のまはりを烈しく馳せめぐった。
     (宮沢賢治「なめとこ山の熊」)8

 「ボクの細道」好きな俳句(936) 宇多喜代子さん。「横文字の如き午睡のお姉さん」(喜代子) 姉妹の微妙な関係はわかりません。しかし、いつもお姉さん風する姉が、だらりと昼寝する姿を見て「ひとこと」返してみたい妹の気持ちはわかる気がします。ボクも、最近、86歳(6歳違い)の姉から、電話あると、つい「あれこれ」超古い昔の話(おしかり)を聞かされます。

        姉上のむかし話や葛の花

 

木魚歳時記 第3186話

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 「今日のことば」
    ところがある年の夏にこんなような
    おかしなことが起こったのだ。
    小十郎が谷をばちゃばちゃ渡って
    一つの岩にのぼったらいきなり
    すぐ前の木に大きな大きな熊が
     (宮沢賢治「なめとこ山の熊」)7

 「ボクの細道」好きな俳句(935) 飯田龍太さん。「どの子にも涼しく風の吹く日かな」(龍太) 龍太さんは、小学校5年生の次女を亡くされています。それも、突然の急病で・・掲揚が、そのことに関係するのかと調べてみました。次女を亡くされたのは、龍太さん36歳のとき、この作品が出来たのは46才の時でした。直接の関係はなくとも、掲句が、龍太さんの優しさから生まれた作品であることに変わりがありません。

        天の川とてもきれいに流れけり

木魚歳時記 第3185話

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 「今日のことば」
    「熊。おれはてまへを憎くて殺したのではねえんだぞ。
    おれも商売ならてめへも射たなけぁならんねえ。(中略)
    てめへも熊に生まれたのが因縁ならおれもこんな商売が
    因縁だ。やい、この次には熊なんぞに生まれるな。」
     (宮沢賢治「なめとこ山の熊」)6

 「ボクの細道」好きな俳句(934) 大串 章さん。「秋風を映す峠の道路鏡」(章) 峠の道にカーブミラーがあったのでしょう。ただそれだけのことです。しかし、秋風にゆれる周囲の風景とか、峠を越えて作者は何処に行こうとされるのだろう・・とか、いろんなことが想像できる作品です。俳句は17文字の短詩形です。読者がいろいろ想像をふくらませることができるのも楽しいものです。

       大夕焼さて眼耳鼻舌身意 

             眼耳鼻舌身意(げんじびぜつしんに)

 

木魚歳時記 第3184話

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 「今日のことば」
    小十郎はぴったり落ち着いて樹をたてにして
    立ちながら熊の月の輪をめがけてスドンとやるのだった。
    すると森までががあっと叫んで熊はどたっと倒れ
    赤黒い血をどくどく吐き鼻をくんくん鳴らして
    死んでしまふのだった。
     (宮沢賢治「なめとこ山の熊」)5

 「ボクの細道」好きな俳句(933) 松永典子さん。「ローソンに秋風と入る測量士」(典子) コンビニはたいて自動ドアです。ですから、客が入ると秋風もついて入ります。近くで建設工事があり、作業していた測量士さんが、お昼弁当を買いに「ローソン」に入った。ただそれだけの作品です。しかし、どこにでもある秋の風景をさりげなく切り取って好感のもてる作品に仕上がっています。

      とつぜんにがさがさ騒ぐ破れ蓮  

                 破れ蓮(やれはちす)

木魚歳時記 第3183話

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 「今日のことば」
    けれども熊もいろいろだから気の烈しいやつなら
    ごうごう吼えて立ち上がって、犬などはまるで
    踏みつぶしさうにしながら小十郎の方へ
    両手を出してかかって行く。
     (宮沢賢治「なめとこ山の熊」)4

 「ボクの細道」好きな俳句(932) 佐藤紅緑さん。「三児ありて二児は戦死す老の秋」(紅緑) ボクは(戸籍上)六男です。二人は幼くして亡くなりました。長男は終戦直前に仏領インドシナ(当時)で死亡したそうです。後の兄たち二人は、二十歳前後にそれぞれ病死したようです。結果、六男に生まれたボクが、無量壽院の跡継ぎとなりました。今は隠居して、あと半年すれば、親父(師僧)の遷化した八十一歳を迎えます。なにもかも不思議なご縁という外ありません。

       二百十日ごうごうと吼え去りにけり