木魚歳時記 第3628話

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 わしも何度も読みかえした。もう一度そなたと一しょに読んでみてもよい。それぐらいなお相手ならまだできようから」
「ありがとうございます。どうぞお願い申しあげます」
と少年は、長者に心からの一礼をした。
(佐藤春夫『極楽から来た』)329

      老僧は鐘と撞木で春を出す  撞木(しゅもく)

 「ボクの細道]好きな俳句(1379) 秋元不死男さん。「へろへろとワンタンすするクリスマス」(不死男) 代表句です。「へろへろ」のオノパトペ(擬態語)が効いています。また、ワンタン、クリスマスの片仮名表記が一句を軽快に仕上げます。

 

木魚歳時記 第3627話

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 うらやましいそなたは、まだ春秋に富む身だ、若いうちの学問は一生の役に立つ。そなたも今のうちに天台の大三部ぐらいは読んでおくことである。あれは読めば読むほど利益の多い書物である。
(佐藤春夫『極楽から来た』)328

      老僧の後ろに目あり雨安居  安居(あんご)

 「ボクの細道]好きな俳句(1378) 秋元不死男さん。「三月やモナリザを賣る石畳」(不死男) 中近東のアラブ諸国にありそうな感じです。白い石造りの壁が、小路が、迷路のように入り組んで続きます。そうした、小路(石造)に観光客相手の出店があり、モナリザの像が置かれてあったというのです。折から、三月の陽光がまぶしく照り返します。

 

木魚歳時記 第3626話

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 ためらいながらありのままに打ちあけたのが、相手の気に入った様子であった。老アジャリは耳を傾け聞き入り、さて慈眼をうるませ、つくづくと少年を見やって、「それは頼もしくよい考えである。しかし、そなたのその決心も今からすぐにではまだ少し早かろう。」
(佐藤春夫『極楽から来た』)327

      寒禽のなほ炯炯と鉄格子  炯炯(けいけい)

 「ボクの細道]好きな俳句(1377) 秋元不死男さん。「蝿生れ早や遁走の翅使ふ」(不死男) 蠅(はえ)に限りません。自然界では、生まれるや同時に生存競争が始まるわけです。それを遁走(とんそう)と表現したところに作者の発意があるわけです。自然界の「掟」は厳粛であります。

 

 

木魚歳時記 第3625話

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 弟子入り少年の方でも、山の生活二年間の間に、だいたい山の事情にも察しがついて、この地は永く居るべきではない、むしろこんな山を立ち出で人知れぬ地に隠れてひとり修行した方がよいのではあるまいかとも考えている心持を、
(佐藤春夫『極楽から来た』)326

      まくなぎに一匹分の重さかな

 「ボクの細道]好きな俳句(1376) 秋元不死男さん。「吸殻を炎天の影の手が拾ふ」(不死男) この作者は心象作品が得意なのでしょうか。吸い殻を拾う「モク拾い」は死語と化しつつあるようです。が、しかし、少しでも長めの吸いサシを求めて、モクを拾う姿は懐かしい。影としたところに詩情が生まれました。

 

木魚歳時記 第3624話

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 あとから思えば、当時、皇円は求道に絶望して史的著述に志していたので、彼はすぐれた少年学侶を導くことで、また新しい求道の意欲が生まれるかも知れないという一道の微光を感じてこの少年を引き受けたものらしい。
(佐藤春夫『極楽から来た』)325

      夜濯のしやぼりしやぼりと外科病棟

 「ボクの細道]好きな俳句(1375) 秋元不死男さん。「鳥渡るこきこきこきと罐切れば」(不死男) 代表句です。「こきこきこき」のオノマトペ(擬音語)が軽快に響きます。その罐切(かんきり)の動作と、「鳥渡る」の季語との取り合わせ、つまり「二物衝撃」の効果が絶妙に発揮された作品です。

木魚歳時記 第3623話

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 せっかくだからともかく一度面会のうえでと、そうして最後にこの少年を一見して、「教えるは学ぶとやら、わしは後生から学ぶ気でしばらく一しょにやってみましょう」というのであった。
(佐藤春夫『極楽から来た』)324

       剃刀の喉もとあたり鱧の皮

 「ボクの細道]好きな俳句(1374) 前田普羅さん。「新涼や豆腐驚く唐辛子」(普羅) 唐辛子は、当然、豆腐を美味しく食するためのいわゆる「薬味」(やくみ)です。その薬味の唐辛子の辛(から)さに豆腐自身が驚いたいうのです。この自由な発想の転換には脱帽です。

木魚歳時記 第3622話

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 皇円ははじめ、源光から相談のあった時は、自ら出家(しゅっけ)の道に迷っている身ではあり、また、現に門を閉じて目下著述中と容易にに引き受けそうもなかったが、
(佐藤春夫『極楽から来た』)323

       霜柱細菌病理研究所

 「ボクの細道]好きな俳句(1373) 前田普羅さん。「向日葵の月に遊ぶや漁師達」(普羅) 月光の中で群れ輝く「ひまわり」たちは、昼間のにぎやかさとまた違い、まるで、漁の合間に語り合う漁師たちのように楽しげに見えた? そんな風に読みました。漁師が出漁(午前早朝)するの時に見た風景を読んだものかも?