木魚歳時記

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木魚歳時記 第3588話

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 かの少年の僧を乗せた船は兵庫の港を出ると、大物(だいもの・今の尼崎)、神崎、江口を経て淀から京都は鳥羽の造り道に向かうのであった。海の波も川浪も、空の雲とともに昨日も今日も日ねもすしずかであった。
(佐藤春夫『極楽から来た』)291

      蟻地獄なむあみだぶつなむあみだ

 「ボクの細道]好きな俳句(1338) 橋本多佳子さん。「夫恋へば吾に死ねよと青葉木菟」(多佳子) 大好きな女流作家です。その作品も好きですが、容貌(写真)もみんな好きです。夫(つま)に先立たれ、一人寝の淋しさに亡き人のことうを思い出す作者。「吾に死ねよ」と鳴く青葉木菟(あおばずく)が効いています。

木魚歳時記 第3587話

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(四)漆氏の少年を兵庫まで送った菩提寺の僧兵頭は、その小さな主人を兵庫から鳥羽に通う船に乗り込ませ、その出船を見送るとそのまま主人の乗り捨てた駒によって美作(みまさか)の山へ馳せ帰った。
(佐藤春夫『極楽から来た』)290

      さつきから蚊に愛されているやうだ

 「ボクの細道]好きな俳句(1337) 山口誓子さん。「俯きて鳴く蟋蟀のこと思ふ」(誓子) なるほど、蟋蟀(こおろぎ)は、うつむいて鳴くように思います。いわれてみるとなるほどとうなずきますが、自然の生態を的確に表現して、読者を納得させることは簡単ではありません。ボクなど、発想も語彙も自己中心的ですから、読者はなにがなんやら(汗)。

木魚歳時記 第3586話

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「そんなものぐさもゆるし、そんな戯(たわむ)れにも真意をよくくみ取ってもらえるだけのごく親しい友だちで、名門の出ではないようですが、それにもまさる高い人がらで、親切でほんとうに出家らしい出家ですからこの人ならば、末々まで、何かとよくはからってもらえましょう」
「ほんとうに何から何まで行きとどいた心づかいで」と、姉は弟に感謝した。
(佐藤春夫『極楽から来た』)289

      変ねえと妻いふぼくの夏帽子

 「ボクの細道]好きな俳句(1336) 山口誓子さん。「探梅や遠き昔の汽車にのり」(誓子) めずらしく抒情俳句です。作者の思いが、なんとなく読者の心に届きます。「遠き昔の汽車にのり」の抽象的な表現は、もしかして、作者の遠い昔の回想では? 誰でも、ひそかに、心の底を探れば「遠き昔」のうずきにも似た感傷に触れるのでは!

木魚歳時記 第3585話

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進 上
   大聖文殊像一体(だいしょうもんじゅぞういったい)
 天養二年乙丑月日 観覚上
 西塔北谷法持房禅下源光
 と、だけ書いておきました。
(佐藤春夫『極楽から来た』)288

      天辺をこはさぬやうにかき氷

 「ボクの細道]好きな俳句(1335) 山口誓子さん。「スケートの紐むすぶ間もはやりつゝ」(誓子) 誰にでも思い当たる行為を、日常の動作から切り取り、その瞬間を映像として描くことは句作の極意となります。この意味で、掲句は、前作と同様に見事という外ありません。しかし、この作品は前作とくらべ「心の動き」までとらえて、読者を納得させるところが凄い。

木魚歳時記 第3584話

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「お山の落ちつく先は?」
「それはまだよく決まっておりませんから、取りあえず、わたくしのごく親しい旧友で、西塔にいる持法房源光(じほうぼうげんこう)というのに頼んでやりましたよ。さっき立つ時、馬の上に手渡したのはその手紙ですが、久しぶりでくどくどしく書けばきりもないから、ほんの一筆、
(佐藤春夫『極楽から来た』)287

      雲の峰海がこんなに碧いのに 

 「ボクの細道]好きな俳句(1334) 山口誓子さん。「泳ぎより歩行に移るその境」(誓子) スケールの大きな作品に続き、瞬間(時間)、それを切り取って見事な作品です。日常(プールで)で見かけたり、自身でも体験したことを思い当たる作品です。水平移動(体)から、垂直歩行(体)に移る、瞬間の動揺(よろめき)、それを描いて見事な作品です。

木魚歳時記 第3583話

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「姫路、三木、と兵庫まではわけありません。兵庫から先は都に近いだけで水路も物騒ではありませんから、たしかな舟を見つけて水路にすればよいと、よくいいふくめておきました。あの者にまかしておけば、大丈夫ですよ。もしも心配なら、わたし自身で出かけもしましたろうに」
(佐藤春夫『極楽から来た』)286

      炎天を象がふらふら歩いてる

 「ボクの細道]好きな俳句(1333) 山口誓子さん。「流星やいのちはいのち生みつづけ」(誓子) ビッグバーン(宇宙の創造)よりこのかた、宇宙の変動は休みなく続けられています。宇宙の変動とは「諸行」の比喩であります。つまり、ブッダの教え、仏教とは、「諸行無常」(しょぎょうむじょう)を説くのです。

木魚歳時記 第3582話

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「そなたがそう見込んでつけてくれたのは安心だけれども、何しろ道は遠いしね」
出雲街道はひらけているし何の苦労もありません。わたくしも幾たびか歩いてよく知っています、いちばんやっかいなのはこのあたりだけで、
(佐藤春夫『極楽から来た』)285

      雲助のいつたり来たり夏の空

 「ボクの細道]好きな俳句(1332) 山口誓子さん。「落蝉の眉間や昔見しごとく」(誓子) 地虫、つまり、空蝉(うつせみ)の眉間も、ひねもす鳴き暮らす現役蝉(せみ)の眉間も、地に落ちて躯(むくろ)と化す直前の落蝉(おちぜみ)の眉間も、蝉の眉間は、昔も今も変わりません。愛すべきツラ構えです。俳人の如きツラをしています。