木魚歳時記 第3030話

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 (十六学生の質問の結語)ビギャンがいった「わたくしは汚泥(おでい)の中に臥(ふ)してもがきながら、洲(す)から洲へと漂(ただよ)いました。そうしてついに、激流を乗り超えた、汚(けがれ)のない正覚者(ブッダ)とお会いできたのです。」(スッタニパータ)

 「ボクの細道]好きな俳句(785) 井上菜摘子さん。「菜の花にふはりと母を置いてきし」(句集『さくらがい』) 季語「菜の花」は、作者の「白地図」にたびたび登場いたします。作者の好きな「ことば」なのでしょう(そう思います)。さて、作者が、大切とされるのは、ご両親であり、兄であり、そして夫であり家族のすべてなのでありましょう。その中でもとりわけ思いの深いお母さまを「菜の花」の臥所に眠らせてあげたい! その思いが「ふはり」の措辞で充分に伝わってきます。

 「今日のことば」
         事を成し遂げる者は
            愚直でなければならぬ。
         才走ってはうまくいかない。
         (勝海舟)

          花菫ガンダーラから来た菩薩

 

木魚歳時記 第3029話

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 (十六学生の質問の結語)(ビギャンがいった)「バラモンさま。わたくしは、もう老いて、気力も衰えました。ですから、わが我が身はかしこ(彼岸)におもむくことはできません。しかし想いを馳せて常におもむきたいのです。わたしの心は、かれ(ブッダ)と結びついているのです。」(スッタニパータ)

 「ボクの細道]好きな俳句(784) 井上菜摘子さん。「鳥の目を容れてふくらむ青葉闇」(句集『さくらがい』) 自然詠のようでそうでもない? それは「鳥の目を容れてふくらむ」にあります。「青葉闇」つまり、大樹の茂みは、多数の小鳥たち容れて休ませ、その倍数の「目」が闇の中に宿っています。これは、仏教が説く「菩薩道」(ぼさつどう)のことです。つまり、「慈悲」(じひ)の教えのことです。季語「青葉闇」を置くことで、一句に、深い寓話性が生まれました。

 「今日のことば」
         運命がカードを混ぜ、
         われわれが勝負する。
         (ショーペンハウアー)

          人形の唇ひらく花の夜

木魚歳時記 第3028話

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 (十六学生の質問の結語)(ビギャンがいった)「バラモンさま。信仰と。喜びと、意(こころ)と、念(おもい)とが、わたくしを、ゴータマ(ブッダ)の教えから離れさせません。智慧豊かな方(ブッダ)さまにわたくしは傾くのです。」(スッタニパータ)

 「ボクの細道]好きな俳句(783) 井上菜摘子さん。「スイトピーになるまで言葉漉いてゐる」(句集『さくらがい』) スイトピーは可憐な花です。「スイトピーになるまで言葉漉(す)いて」とは、なんと素敵な表現でしょうか。菜摘子俳句の素晴らしさは、作品を完成させる(自身を研く)ために、用いる17文字を完膚(かんぷ)なきまで磨き、掬い上げるところにあります。結果、美事な和紙に漉き上げた如く17文字の世界が描かれるのです。

 「今日のことば」
         不幸というものは、
         耐える力が弱いと見てとると、
         そこに重くのしかかる。
         (シェイクスピア) 

         人妻の白きうなじや花かがり

 

木魚歳時記 第3027話

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 (十六学生の質問の結語)(ビギャンがいった)「バラモンさま。わたくしは怠ることなく、昼夜に、心の眼を以ってかれ(ブッダ)を見ています。かれを礼拝しながら夜を過ごしています。ですから、わたくしはかれ(ブッダ)から離れて住んでいるのではありません。」(スッタニパータ)

 「ボクの細道]好きな俳句(782) 井上菜摘子さん。「みづいろの瓶をあふるる春の闇」(句集『さくらがい』) 一転、この作者のもつ、知的で強靭な精神力をぞんぶんに示した作品です。「みづいろの瓶」とは? その中身のことはわかりません。しかし、あふるる「春の闇」とあります。興味がわきます。果たして魑魅(ちみ)が出るのか、魍魎(もうりょう)が出るのか? 読者の好奇心を掻き立てて充分です。綿密な構成力と、そのために掬いあげられる語彙の確かさは、この作者の定評となるところであります。

 「今日のことば」
         切の人生の果実は、
        その人が蒔いた種子のとおり表現してくる。
         (中村天風)

          うららかや魑魅もゾンビも魍魎も

木魚歳時記 第3026話

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 (十六学生の質問の結語)(ビギャンがいった)「即時に実現され、時を要しない法、すなわち煩悩(ぼんのう)なき妄執の消滅を、かれ(ブッダ)は説示されました。かれ(ブッダ)に比すべき人はどこにも存在しません。」(スッタニパータ)

 「ボクの細道]好きな俳句(781) 井上菜摘子さん。「白地図やまづ蝶の径付けてやる」(句集『さくらがい』) 作者は、自由に書き込むことのできる「白地図」(心の)をお持ちのようです。ふわふわと舞いはじめた初蝶のために、まず、この白地図に、蝶のゆく「径」(みち)を示してあげたい。そのことは、これからたどるであろう自身の「道程」(みち)と重なるかもしれない。と、いうのです。作者の心根の優しさがにじむような作品です。

 「今日のことば」
         面白いねぇ、実に。オレの人生は。
         だって道がないんだ。
         眼の前にはいつも、なんにもない。
         ただ前に向かって身心をぶつけて挑む
         瞬間、瞬間があるだけ。
         (岡本太郎)

          囀りの中で接吻してみたい 

                     接吻(せっぷん)

 

木魚歳時記 第3025話

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 (十六学生の質問の結語)(ビギャンがいった)「(師)バーヴァリさま。わたくしは、知恵豊かなゴータマ(ブッダ)、のもとから、瞬時でも離れて住むことはできません。」(スッタニパータ) 

 「ボクの細道]好きな俳句(780) 井上菜摘子さん。「菜の花は吃水線なり逢ひにゆく」(句集『さくらがい』) 吃水線(きっすいせん)とは、船舶の積載量(基準)を示す、船腹の赤いラインのことです。さて、作者は、ある重大な決断に迫られた? それは「逢ひにゆく」とあります(もしかしたらプロポーズへの回答か?)。ならば、作者の好きな「菜の花」の美しい、今、この時期を逃してはならない! 「吃水線」を心の基準(比喩)として用いて見事に成功した秀作です。

 「今日のことば」
         どんな遠くに旅をしても、
         その距離だけ内面へも旅をしなければ、
         どこへも行きつくことはできません。
          (リリアン・スミス)

          菫ほど愛しきものに恋心

木魚歳時記 第3024話

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 (十六学生の質問の結語)バーヴァリがいった。「かれ(ブッダ)は、即時に実現され、時を要しない法、すなわち煩悩(ぼんのう)なき妄執の消滅をそなたに説示した。かれに比すべき人はどこにも存在しない。」(スッタニパータ)

 「ボクの細道]好きな俳句(779) 井上菜摘子さん(春季)。「桜貝わたくしといふ遠流かな」(句集『さくらがい』) 句集名となった代表作です。作者自身がその足跡を振り返り「遠流」(おんる)とは少し厳しすぎるとしても、今、浜辺に流れつき、なお、打ち寄せる波に磨かれつづける桜貝(自身)を自分で褒めてあげたいような気もする。ふと、ボクは、小笠原秀實先生の「足あとの残らば残れ足あとの消えなば消えねひとり旅ゆく」のお歌を思い出していました。

 「今日のことば」
         人生は意義ある悲劇だ。
         それで美しいのだ。
         生き甲斐がある。
          (岡本太郎)

         陽炎を裏であやつる陰陽師 

                    陰陽師(おんみょうじ)