木魚歳時記 第3274話

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 「今日のことば」
    気のせいか、誰かが小声で歌をうたって
    いるような気がする。
    「長良の乙女」の歌を、
    繰り返すように思われる。
     (夏目漱石『草枕』)抄10

 「ボクの細道」好きな俳句(1025) 山西雅子さん。「拾ひたる温き土くれ七五三」(雅子) 「七五三」(冬季)の行事はよく知りません。しかし「拾ひたる温き土くれ」とは、そのこと(行事)に関係なく、何かのはずみに手にした「土くれ」が意外に温く感じられた・・そのことで、我が子の成長をよろこぶ親の気持ちが伝わります。

      助走する冬の川鵜のするすると

木魚歳時記 第3273話

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 「今日のことば」
    宿についたのは八時ごろであった。
    取次ぎも、湯壺への案内も、
    晩飯の給仕も床を敷く面倒も・・
    ことごとく小女がひとりでする。
     (夏目漱石『草枕』)抄9

 「ボクの細道」好きな俳句(1024) 山西雅子さん。「引掻いて洗ふ船底秋没日」(雅子) 小さな木造の漁船でしょう。船底についた貝殻とか付着物を掻きとる作業のことでしょう。出漁のない日を選んで、船を浜に引き上げて作業をするうちに、はや、冬の日は暮れなずみます。

      唐突のJアラートや氷柱落つ

 

木魚歳時記 第3272話

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 「今日のことば」
    婆さんの話では
    「那古井のお嬢さまにはいろいろとわけがあり、
    嫁いださきから、城下で随一の物持ちの、那古井の
    温泉宿に戻っている。」
    と、まあ、こんなことであります。
     (夏目漱石『草枕』)抄8

 「ボクの細道」好きな俳句(1023) 山西雅子さん。「また夜が来る鶏頭の拳かな」(雅子) 鶏頭の拳(こぶし)とは? あざやかな色彩でごつごつと咲く、真っ赤な鶏頭の花が思い浮かびます。そんな鶏頭の拳(こぶし)であったとしても、夜のしじまはおかまいなく訪れるのでしょう。ふと「明易しまた昼がくる高齢者」(木魚)の駄句を思い出しました。

      中空を法爾自然と木の葉舞ふ 

                  法爾自然(ほうにじねん)

 

木魚歳時記 第3271話

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 「今日のことば」
    「ほんとうに気の毒なあんな器量を持って。
    近頃はちっとは具合がいいかい。」
    「なあに、相変わらずさ」
    「困るなあ」と婆さんが大きな息をつく。
    「困るよう」と源さんが馬の鼻をなでる。
      (夏目漱石『草枕』)抄7

 「ボクの細道」好きな俳句(1022) 藺草慶子さん。「髪白くなるうつそみや星の恋」(慶子) 「うつそみ」とは、現人(うつせみ)、つまり、この世に存在する「人間」のことを指すのでしょう。「星の恋」、つまり、牽牛星と織女星の恋に比べて、この世に暮らす織女星(わたくし)の髪のなんと白くなったことよ。ふと見上げると天の川のなんと美しくかがやいていることよ・・

      掌にレトロいつぱい酉の市    

                   掌(てのひら) 酉(とり)

木魚歳時記 第3270話

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 「今日のことば」
    馬子唄の鈴鹿越ゆるや春の雨
    「おや源さんかい。また城下へ行くかい。」
    「娘に霊厳寺の御札をもらってきておくれ。」
    「お秋さんは仕合せかい。」
    「仕合せとも、あの那古井のお嬢さまと比べて御覧。」
      (夏目漱石『草枕』)抄6

 「ボクの細道」好きな俳句(1021) 藺草慶子さん。「踏む影のそばからあふれ盆踊」(慶子) 盆踊りの盛んな時代の作品でしょう。盆踊りは地域衆の踊りですから、一定のルールはありますが、参加者は自由で踊りの「環」(わ)も乱れることがあります。また、盆おどりの意味も、時代につれて、ご先祖への供養とか地域の親睦・娯楽の内容から、違ったものに変わりつつあります。

      さつきから時雨心地にひたりけり

木魚歳時記 第3269話

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 「今日のことば」
    「宿屋はたった一軒だったね。」
    「へえ、志保田とお聞きになれば、
    湯治場だか隠居所だかわかりません。」
    「じゃお客がなくても平気なわけだ。」
     (夏目漱石『草枕』)抄5

 「ボクの細道」好きな俳句(1020) 藺草慶子さん。「叡山やみるみる上がる盆の月」(慶子) 息子夫妻との世代交代を機に、洛北松ヶ崎に転居して早3年となります。高野川に沿って走る、鯖街道(福井小浜 ⇔ 京都)の拠点となる山端(やまばな)の一帯を松ヶ崎と呼びます。掲句にある比叡山の山裾です。

      終活や手擦り脚擦る冬の蠅

 

木魚歳時記 第3268話

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 「今日のことば」
    峠にあった茶店で
    婆さんに聞いてみる。
    「ここから那古井までは
    一里足らずだったね。
    「はい、二十八丁と申します」
    旦那さまは湯治におこしで・・
     (夏目漱石『草枕』)抄4

 「ボクの細道」好きな俳句(1019) 藺草慶子さん。「十人の僧立ち上がる牡丹かな」(慶子) 「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿が百合の花」。これは女性を賛美した譬え。これを「十人の僧立ち上がる」とは! 何か、ミステリアスな動きまで予感できて素敵です。牡丹(ぼたん)といえば、「牡丹百二百三百門一つ」(阿波野青畝)さんの作品を思い出します。

     草庵を寓居と定め臘八会 

                 臘八会(ろうはつえ)