2014-01-12から1日間の記事一覧

木魚歳時記 第1682話

子燕のこぼれるばかりにこぼれざる 小澤 實 ぼくは、市販の句集としては『飯田龍太句集』(全十巻)しか持っていません。それは、多くの句集がそうであるように、作者の渾身を込めた作品が各ページにぎっしりと羅列された状態で観賞する力がないからです。こ…

木魚歳時記 第1681話

雪よりも白き骨これおばあさん 成田千空 そこで総合誌『俳句』で見つけた好きな作品(脳天に響くような)とか、納得する俳論とか、魅力的な語彙(ごい)などに出会うと、それを書き記す作業を始めました。この二年間はそうした作業の繰り返しでありました。…

木魚歳時記 第1680話

鴎外も茂吉も紙魚に食はれけり 藤田湘子 最初は『俳句』の字面(じづら)を目で追うのが精一杯でした。無意味に『俳句』が書架に並んでゆきました。ところが三年を過ぎた頃、つまり、俳句を始めて八年ほどした頃に、ふと、書架に並んだ『俳句』を再読してみ…

木魚歳時記 第1679話

豚の骨叩き切りたる沖縄忌 吉田汀史 紫水先生に、俳句上達の「周期五年説」があります。五年を節目に俳句がワンランク上達するという説です。ぼくの最初の五年間は塚本邦雄イズムに影響された「借り物」俳句でした。後半の五年間は、総合誌『俳句』(角川)…

木魚歳時記 第1678話

扇風機好き好き好きと押し倒し 小林貴子 紫水教室では、いろんなことを学びました。俳句の基本はもちろん、作句のコツのコツに至るまで、秀句とそうでない作品を例句として挙げながら、懇切丁寧に繰り返し繰り返し教えていただきました。ところがぼくは、教…

木魚歳時記 第1677話

春灯や緋色桃色脱ぎちらし 櫂 未知子 さっそく、カルチャー教室三箇所に電話をしました。そして、偶然、空席のあった「近鉄俳句教室」に受講を申し込みました。それが藤岡紫水(しすい)先生とのお出会いであります。ところで、自然界において、鶯の巣に托卵…

木魚歳時記 第1676話

十五より俳諧ぐるひ春火桶 辻 桃子 新参者の吟旅は思わぬ成果を生むことになります。花巻空港より帰阪する機内で、隣り合わせた先輩から、思いがけない貴重なアドバイスを頂戴いたしました。それは「俳句を始めるなら京鹿子系列の先生が講師をされる<カルチ…

木魚歳時記 第1675話

二階から家に出入りの蝿である 桑原三郎 入会の翌月、五月には結社主催の「吟旅」(ぎんりょ)に参加しました。大阪から青森に飛び、丸山遺跡を見学、そして下北半島を北上して恐山(おそれざん)に至り、薬研(やげん)温泉に一泊する吟旅でした。懇親会食…

木魚歳時記 第1674話

冬いやや人なほいやや葬の日 星野爽丘人 俳句を始め、いきなり「例会」に参加しました。「例会」とは、全国各地の、京鹿子の系列に連なる各種句会の中で、ただ一つ、京鹿子が主催する「定例句会」(毎月)のことです。実に錚々(そうそう)たるメンバーに混…

木魚歳時記 第1673話

非常口に緑の男いつも逃げ 田川飛旅子 平成十四年四月、六十五歳で定年退職するとき、あるお方から勧められて、俳句結社「京鹿子」(きょうかのこ)に入会をしました。それまで、全く俳句に関心はありませんでした。自由時間を有効な「習い事」に使いたい、…

木魚歳時記 第1672話

暗黒の関東平野に火事一つ 金子兜太 兜太さんの作品は幾度かご紹介しました。ぼくは兜太さんを、写真とか、俳句作品とか、俳論とか、座談収録とかで知るだけです。しかし、いつも、そのバイタリティーには圧倒されます。尊敬をしています。さて「俳句は脳味…

木魚歳時記 第1671話

餅食べて妻は家出をするといふ 星野麥丘人 他に{冬いやや人なほいやや葬の日}{でで虫に雨が好きかと訊いてみる}{穴惑ひまさかと思ふそのまさか}などの作品もあります。このところ、俳句雑誌など見ると、文字が並んでいるだけで、ぼくの脳天に響かない…

木魚歳時記 第1670話

登校の小学生や豆の花 石田郷子 この作者は自然の中に生活の拠点を移して句作活動をつづけておられるそうです。ですから、自然に恵まれた作品は元気に満ちています。ところで、井上ひさしさんのことばに「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、…

木魚歳時記 第1669話

草の根の蛇の眠りにとどきけり 桂 信子 {冬眠の蝮のほかは寝息なし}(金子兜太)の作品とくらべると面白い。「寝息なし」の作品はあくまでもおおらかなアニミズム作品であります。「草の根」の作品は繊細な心理描写であります。伝記によれば、信子は結婚二…

木魚歳時記 第1668話

チューリップ花びら外れかけてをり 波多野爽波 椿の花は「ぼとり」と落ちます。その潔さが武士道に適っていたとか?「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」。そんな芍薬も牡丹も盛りの頃の豪華さにくらべると散るときは無残であります。百合の花の萎む姿…

木魚歳時記 第1667話

椿象は来るはパソコンは鈍いは 大石悦子 椿象(かめむし)は亀虫とも。秋の季語です。別称「放屁虫」(へひりむし)とも称し、触れるとお尻のところから猛烈な悪臭を噴出するので、それが手につくとなかなか消えないやっかいな虫です。ところで、さっきから…

木魚歳時記 第1666話

葱だけを見てとんとんと葱刻む 岩田由美 指先の包丁の動きと刻まれてゆく葱(視覚)、トントンと続く単調な響き(音)の外は、すべてを消してしまった世界、というか、葱を刻む動作だけを見事に作品にする力量。うーん。さて、「林檎が描きたいのか、林檎の…

木魚歳時記 第1665話

] 駅降りてすぐに蜜柑の花の中 加倉井秋を 蜜柑畑と海岸線の狭い傾斜を縫うように鉄道が走っています。無人駅を出ると一面の蜜柑の花の真っさかり。「♪蜜柑の花が咲いている」と、思わずハミングでもしたくなるような風景が広がります。のんびりとローカル線…