木魚歳時記第4010話

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 一たび平治元年の師走の、天皇と上皇とを忍ばせた二台の女車が、兵火の煙の末が立ち迷うこのあたりに渡らせ給い、関白以下百官のはせ参ずるに至り、清盛をして「一門の繁栄、弓箭(きゅうぜん)の面目」と狂喜せしめてよりこのかた、昔日の狐狸の棲家、六波羅の地は、いま日々の貴人の馬車の往還のと絶えぬ地域となり、貴紳の流行風俗も烏帽子のためよう、衣紋のかかわりなど何事も六波羅様といわれ、貴紳の流行はすべてこの地より興るという有様であった。
(佐藤春夫『極楽から来た』)683

        父さんへあなたあなたと草の花

「ボクの細道]好きな俳句(1757) 秋元不死男さん。「鳥渡るこきこきこきと罐切れば」(不死男) 作者の代表句です。「こきこき」のオノマトペが効いています。軽快な音と動作が目に浮かぶようです。窓の外に目をやれば、南へ帰るのでしょうか、澄み切った秋空に渡り鳥の姿が・・

 鹿6  鹿はじっと耳をかしげて、胡散臭(うさんく)さそうに私の言葉を聴いていた。私が口をつむぐと、彼はもう躊躇(ちゅうちょ)しなかった。一陣の風に、樹々の梢(こずえ)が互いに交差してはまた離れるように、彼の脚は動いた。彼は逃げ去った。