木魚歳時記 第3313話

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「やっぱり少しはおかしいが、それで少しは話もわかって来た。鷲や天狗にさらわれたの違って、それならばそれでいい。お前のおやじさまという人は一本気な思いつめるお人で、以前から天子さまのことといえば夢中であったが、自分の思うところを遂げて、天子さまのおそばに行ったのだ。いまの世に自分の夢を追っかけて望みのままをぞんぶんにやれる人はうらやましいよ。生きがいももないわしらには追っかけてみたい夢もなく、食って寝て死ぬばかり。それに食うためには山の鳥獣よりもあくせくしている」
 と、彼は口ではそういうが、はらの底ではやかり義兄定国が行きづまった人生行路でもはや、立ち直る気力も自信もなく狂気を発したのだという疑いを消すことはできなかった。(佐藤春夫『極楽から来た』)19

     死はときに媚薬のごとし蒙古風

 「ボクの細道]好きな俳句(1064) 能村登四郎さん。「老境や空ほたる籠朱房垂れ」(登四郎) 空っぽの蛍籠が置いてある? でも「朱房垂れ」ですから、空閨(妻が居ない寝室)の比喩でしょうか? この作者の作品は暗示的なので・・いっそ、独り者の素浪人が住む長屋に赤い腰巻が干してある、とそれくらい飛躍させて想像してみるのも面白い。