二つ目は、サンスクリット語の<トゥリシュナ>です。この原義は<渇き>とされます。人はのどが渇いたとき水を飲まずにはいられないように<渇き>は、人間の最も根源的な欲望を指します。
仏教にも<渇き>が取り入れられ、それは、仏教の根幹的な教えである「十二支縁起」(じゅうにしえんぎ)の体系の中に組み込まれました。すなわち「人は、苦痛を受けるものに対しては憎しみを避けようとする強い欲求を生じ、楽を与えるものに対してはこれを愛し求めようとする熱望を生じる」。との考え方です。この、渇きに対する癒しの行為は、やがて「抜苦与楽」(ばっくよらく)、つまり仏教の最も根幹的な教えとして定着します。すなわち「仏・菩薩が衆生を苦しみから救い、福楽を与える」という教え、つまり「慈悲」の教えに成熟するのです。