2014-01-11から1日間の記事一覧

木魚歳時記 第1634話

縁側に鶏が歩いて明け易し 小笠原和夫 短夜(夏)の夜明けは早い。一番鶏で目が覚めて庭に出てみると、濡れ縁のところを、我がもの顔の鶏が歩いています。この作者には、他に{抱き佛上手に抱けてすいつちよん}{どこよりも高くて落し水の村}{かつぎたる…

木魚歳時記 第1633話

かまぼこに紅のふちどり春一番 佐藤和枝 家庭料理に欠かせないのが<かまぼこ>です。この俳句を見て心に浮かぶのは幼い頃の遠足のこと。お母さんの作ってくれたお弁当のこと。そんな<追体験>の出来ることが佳句となる条件の一つです。また「紅のふちどり…

木魚歳時記 第1632話

秋風や野辺の送りのゆきどまり 渋谷 道 他に{馬駆けて菜の花のきいろを引き伸ばす}{翅あはせ僧となりたる黒揚羽}{大花火より手花火のいのち切}「蝮より蝮捕り器のぶきみなる}などの作品があります。開業医としてときには難解とも見受けられる作品もあ…

木魚歳時記 第1631話

月光が革手袋に来て触るる 山口青邨 他に{たんぽゝや長江濁るとこしなへ}{舞姫はリラの花より濃くにほふ}の作品もあります。「表現するための工夫は難しいことであったが、私に課せられた一つの仕事と思って課し続けてきた」。とは作者の弁です。大学教…

木魚歳時記 第1630話

月明るすぎて死ぬこと怖くなる 津田清子 {世の中に まじらぬとはあらねども ひとり遊びぞ 我はまされる}。あの良寛禅師さまのお歌です。このお歌とくらべることなどおこがましいかぎりです、が、そうです。このぼくは人間嫌い、とまではゆかないとしても、…

木魚歳時記 第1629話

虫の闇だまつて通る虫のあり 石田郷子 澄んだ虫の声に秋の到来が感じられます。「虫すだく」とか「虫時雨」とくれば、静けさの中に賑やかな気配すら感じることもあります。いっせいに鳴く「虫楽隊」のにぎやかさがあるからです。しかし、掲句は「虫の闇」と…

木魚歳時記 第1628話

死にたれば人来て大根煮きはじむ 下村槐太 ご不幸があると、身内はただおろおろするだけで何の役にも立ちません。頼りになるのは向う三軒両隣のご近所でした。必要な部屋のかたずけや掃除をすませ、炊き出しを始めました。それが<おたがいさま>であったの…

木魚歳時記 第1627話

くちなはのうつとりと鳥締めにけり 角谷昌子 「くちなは」とは蛇のことです。蛇が鳥を捕らえた瞬間は、さぞかし凄まじい<場面>が展開されたでありましょう。しかし鳥が静かになるにつれ蛇の表情も穏やかに変わってゆく。そしてやがて、絞めつけられている…

木魚歳時記 第1626話

死者あまた卯波より現れ上陸す 眞鍋呉夫 他に{青き夜の猫がころがす蝸牛}{蛤の舌だす闇の深さかな}{骨箱に詰めこまれゐし怒涛かな}などの作品があります。この方は東北ご出身で、長らく散文作家として活動されていたようです。平成22年90歳で第4…

木魚歳時記 第1625話

厨房に貝が歩くよ雛祭 秋元不死男 他に{尼僧きて藤のむらさきくもりけり}{ねたきりのわがつかみたし銀河の尾}{何か曳く春の蚊飛べり三鬼亡し}などの作品があります。まず「厨房]と「雛祭」という異なった舞台装置を取り合わせたことは驚きです。人の寝…

木魚歳時記 第1624話

蝶墜ちて大音響の結氷期 富澤赤黄男 他に{くらやみへ くらやみへ 卵ころがりぬ}{蛾の青さ わたしは睡らねばならぬ}{賑やかな骨牌の裏面のさみしい絵}などの作品があります。この<一字空け>の手法は、ときおり見かけますが、やはりこれも少数派のよう…

木魚歳時記 第1623話

身をそらす紅の絶巓処刑台 高柳重信 他に{「月光」旅館/開けても開けてもドアがある}{月下の宿帳/先客の名はリラダン伯爵}などの作品があります。掲句でわかるように、こうした視覚に訴える<分ち書き>の手法はこの作者の独壇場であり他者の追従を許…

木魚歳時記 第1622話

黒猫の子のぞろぞろと月夜かな 飯田龍太 龍太といえば{一月の川一月の谷の中}は名句中の名句。{かたつむり甲斐も信濃も雨の中」{白梅のあと紅梅の深空あり}代表作を列挙すればきりがありません。まさに、戦後を代表する大俳人です。ぼくは、龍太全集(…

木魚歳時記 第1621話

雪の中人かたまつて匂ひ出す 岡本 眸 {うそばかり言う男らとビール飲む}{洗ふとて食器二三や昼の虫}{夜は雨といふ草餅の草のいろ}日常性を詠みながら、自分の世界を自分の言葉で詠んで、読者の心をなごませます。読んでいて肩に力の入らないのがこの作…

木魚歳時記 第1620話

なまはげや柱はなさぬ子がひとり 小原啄葉 ご存知の<なまはげ>は秋田県雄鹿半島を中心に伝わる新年の行事です。怒涛のごとく迫る<なまはげ>にさらわれないよう家の柱にしがみつく男の子。そんな姿が浮かびます。ところで、昔「ぼく、学校休む」と、お寺…

木魚歳時記 第1619話

さくらさくらこの子取扱注意 塩見恵介 ぼくのことかと一瞬ギョとしました。ぼくも小3の頃は朝から晩まで虫捕り、魚捕り、パンツ盗り(まさか)の登校拒否で落第をしました。「あの子けったいな子。警察ちゃんと知ってるのかしら」向う三軒両隣ひそひそ噂し…

木魚歳時記 第1618話

熊の出た話わるいけど愉快 宇多喜代子 熊の好物のドングリが減って熊もいたしかたなく里に下りてくるのでしょう。人間と熊が共存できた、もっとおおらかな時代の話であります。山中で突然に熊と遭遇した人のことで話に花が咲いています。「死んだふりした」…

木魚歳時記 第1617話

佐渡ヶ島ほどに布団離しけり 櫂 未知子 〔シャワー浴ぶ悪事の前とその後と〕{火事かしらあそこも地獄なのかしら}こうした一連の作品の他に、もちろん〔海流のぶつかる匂ひ帰り花〕〔地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島〕〔白梅や父に未完の日暮あり〕{ゆつく…

木魚歳時記 第1616話

香水や時折キッとなる婦人 京極杞陽 おもわずウッとなるくらい香水をふりかけ、時折、キッとなるご婦人は最近少なくなりました。たいていの男が敬遠するからでしょうか?昔から、男は、ドラマの松阪慶子さんのように、やさしくて、なんでも男のいいなりにな…

木魚歳時記 第1615話

蠅とんでくるや箪笥の角よけて 京極杞陽 蠅(はえ)がすい~っと弧を描いて箪笥(たんす)の角を曲がって来たというのです。そういわれてみると、黒い小さな蠅の飛ぶさまも、それが箪笥の角の避ける様子までが目に浮かんできます。すべてが「箪笥の角をよけ…

木魚歳時記 第1614話

あめんぼと雨とあめんぼと雨と 藤田湘子 水面を軽快に走るあめんぼ。そこへポツリポツリと雨が落ちてきました。あめんぼがつくる水の輪と雨足が作る水輪、その絶妙のアンサンブルに作者は興味が湧いたようです。ところで、坪内稔典氏に{せりなずなごぎょう…

木魚歳時記 第1613話

鳥の巣に鳥が入ってゆくところ 波多野爽波 きらきらしたことばのかがやきも、ドキドキするような内容のめずらしさもありません。親鳥が、抱卵か給餌のためでしょうか、茂みにこしらえた巣の中に入ってゆくところです。その後ろ姿の一瞬をとらえただけの俳句…

木魚歳時記 第1612話

東寺さんの「仕舞弘法」に行きました。そこで四国霊場八十八ヶ所の「お砂踏み」も体験してきました。そのとき、お許しを得て各霊蹟寺院の御尊像写真を撮影してきました。また、ホームページへの掲載もお許しを頂きました。新年より順次これを掲載させて頂き…

木魚歳時記 第1611話

「新しい朝が来た 希望の朝だ 喜びに胸をひらけ 大空 仰げ ラジオの声に 健やかな胸を この薫る風に開けよ ソレ 一二三」。NHKラジヲ体操の歌です。これからはパソコンに向かって息をつめる作業はできるだけ減らすことにしました。ご近所での早朝ラジオ体操…

木魚歳時記 第1610話

「眞隆俳句自選二百を拝受いたしました。句集の刊行陸続、継続は玉を造ると感じ入りました。大遠忌の最中にて味読することは少し先になりますが、句集を机上に置いて楽しむべく心にかけています。ご芳情に多謝」。これは総本山知恩院門跡・浄土宗管長、伊藤…

木魚歳時記 第1609話

S・Sさんよりのお手紙。「 眞隆さんは見事な短距離ランナーですね。自句集は不要と断言していた私も心が動きます。もう何度も頁を繰りました。マラソンで、へろへろ歩いてきた自分に愛想がつきました」。このお方は謙遜されておられますが、結社を代表する…

木魚歳時記 第1608話

M・T 先生からのお手紙。「この句集は、貴方の歩まれて来られた俳句人生の賛歌です。これまでよりも、もっともっと高らかに大きく胸を張って堂々と歩まれることを望みます」。とありました。この方は、成形外科のお医者さまです。その後も幾度か励ましのお手…

木魚歳時記 第1607話

F・O さんからのおハガキ。「お洒落な装丁と美女の柔肌のような句集を撫でております。仏の道を歩まれる眞隆さんを、今、俳句の神様が色目を送っている真っ最中とおみうけしました」。嗚呼。ぼくとくらべたら雲上人に近い高名な先達から、このようなお言葉…

木魚歳時記 第1606話

N・I さんからのお手紙。「動的な眞隆さんの俳句に対して、静的な静寂に包まれた写真が、絶妙なコラポとなっていますね。これが眞隆さんの世界なのでしょう」。うっ、意識しているわけではありませんが、俳句も、写真も、コラムも、作者が同一人物なわけで…

木魚歳時記 第1605話

K・M さんからのお手紙。「夕方の便で句集が届きました。夕食の準備も忘れて一気に読ませて頂きました」。こんなのが一番に嬉しい。自画自賛するわけではありませんが、ぼくも、句集が届いたとき、一気に読んでしまいました。対照的なのは「句集届きました。…