木魚歳時記

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木魚歳時記 第3280話

「今日のことば」 「さ、お召しなさい。」と後ろに廻って ふはりと余の背中へ柔かい着物をかけた。 「ありがとう」 向き直る、途端、女は二歩退いた。 (夏目漱石『草枕』)抄16 「ボクの細道」好きな俳句(1031) 山西雅子さん。「木の股を越ゆる木の蔓春寒…

木魚歳時記 第3279話

「今日のことば」 「御早う。昨夜はよく寝られましたか」 戸をあけるのと、この言葉とは、ほとんど同時にきた。 さっそくの返事も出るいとまさえない。 (夏目漱石『草枕』)抄15 「ボクの細道」好きな俳句(1030) 山西雅子さん。「秋澄むと子犬を膝に乗せ…

木魚歳時記 第3278話

「今日のことば」 湯壺の中で顔を浮かしていた。 昨夜はどうしてあんな心地になったのであろう。 濡れたまま上って、また驚かされた。 (夏目漱石『草枕』)抄14 「ボクの細道」好きな俳句(1029) 山西雅子さん。「大空にしら梅をはりつけてゆく」(雅子) …

木魚歳時記 第3277話

「今日のことば」 唐紙がすうと開いた。 女の影がふうと現れた。 色の白い 髪の濃い、襟足の長い女である。 唐紙が閉まる。 余が眠りはしだいに濃(こま)やかとなる。 (夏目漱石『草枕』)抄13 「ボクの細道」好きな俳句(1028) 山西雅子さん。「胴に鰭寄…

木魚歳時記 第3276話

「今日のことば」 「正一位 女に化けて 朧月」 「海棠の 露をふるふや 物狂」 「春の夜の 雲に濡らすや 洗ひ髪」 「うた折々 月下の春を おちこちす」 「思ひ切って 更け行く春の 独りかな」 (夏目漱石『草枕』)抄12 「ボクの細道」好きな俳句(1027) 山…

木魚歳時記 第3275話

「今日のことば」 障子をあけ、あの声はと、耳の走る見当を 見破ると・・ わがいる部屋の棟の角が、すらりと動く、 背の高い女の姿を、すぐに遮ってしまう。 (夏目漱石『草枕』)抄11 「ボクの細道」好きな俳句(1026) 山西雅子さん。「一筋の髪が手に落ち…

木魚歳時記 第3275話

「今日のことば」 障子をあけ、あの声はと、耳の走る見当を 見破ると・・ わがいる部屋の棟の角が、すらりと動く、 背の高い女の姿を、すぐに遮ってしまう。 (夏目漱石『草枕』)抄11 「ボクの細道」好きな俳句(1026) 山西雅子さん。「一筋の髪が手に落ち…

木魚歳時記 第3274話

「今日のことば」 気のせいか、誰かが小声で歌をうたって いるような気がする。 「長良の乙女」の歌を、 繰り返すように思われる。 (夏目漱石『草枕』)抄10 「ボクの細道」好きな俳句(1025) 山西雅子さん。「拾ひたる温き土くれ七五三」(雅子) 「七五…

木魚歳時記 第3273話

「今日のことば」 宿についたのは八時ごろであった。 取次ぎも、湯壺への案内も、 晩飯の給仕も床を敷く面倒も・・ ことごとく小女がひとりでする。 (夏目漱石『草枕』)抄9 「ボクの細道」好きな俳句(1024) 山西雅子さん。「引掻いて洗ふ船底秋没日」(…

木魚歳時記 第3272話

「今日のことば」 婆さんの話では 「那古井のお嬢さまにはいろいろとわけがあり、 嫁いださきから、城下で随一の物持ちの、那古井の 温泉宿に戻っている。」 と、まあ、こんなことであります。 (夏目漱石『草枕』)抄8 「ボクの細道」好きな俳句(1023) …

木魚歳時記 第3271話

「今日のことば」 「ほんとうに気の毒なあんな器量を持って。 近頃はちっとは具合がいいかい。」 「なあに、相変わらずさ」 「困るなあ」と婆さんが大きな息をつく。 「困るよう」と源さんが馬の鼻をなでる。 (夏目漱石『草枕』)抄7 「ボクの細道」好きな…

木魚歳時記 第3270話

「今日のことば」 馬子唄の鈴鹿越ゆるや春の雨 「おや源さんかい。また城下へ行くかい。」 「娘に霊厳寺の御札をもらってきておくれ。」 「お秋さんは仕合せかい。」 「仕合せとも、あの那古井のお嬢さまと比べて御覧。」 (夏目漱石『草枕』)抄6 「ボクの…

木魚歳時記 第3269話

「今日のことば」 「宿屋はたった一軒だったね。」 「へえ、志保田とお聞きになれば、 湯治場だか隠居所だかわかりません。」 「じゃお客がなくても平気なわけだ。」 (夏目漱石『草枕』)抄5 「ボクの細道」好きな俳句(1020) 藺草慶子さん。「叡山やみる…

木魚歳時記 第3268話

「今日のことば」 峠にあった茶店で 婆さんに聞いてみる。 「ここから那古井までは 一里足らずだったね。 「はい、二十八丁と申します」 旦那さまは湯治におこしで・・ (夏目漱石『草枕』)抄4 「ボクの細道」好きな俳句(1019) 藺草慶子さん。「十人の僧…

木魚歳時記 第3267話

「今日のことば」 固(もと)より急ぐ旅でないから、 ぶらぶら七曲りへかかる。 たちまち足の下で雲雀の声がし出した。 せっせと忙しく、絶間なく鳴いている。 山を越えて落ちつく先の、今宵の宿は 那古井(なこい)の温泉場か。 (夏目漱石『草枕』)抄3 …

木魚歳時記 第3266話

「今日のことば」 住みにくさが高じると、 易い所に引き越したくなる。 どこへ越しても住みにくいと 悟った時、詩が生まれ、 画(え)が出来る。 (夏目漱石『草枕』)抄2 「ボクの細道」好きな俳句(1017) 藺草慶子さん。「もつと軽くもつと軽くと枯蓮」…

木魚歳時記 第3265話

「今日のことば」 智に働けば角が立つ。 情に棹させば流される。 意地を通せば窮屈だ。 とかく人の世は住みにくい。 (夏目漱石『草枕』)抄1 「ボクの細道」好きな俳句(1016) 藺草慶子さん。「学校へ来ない少年秋の蝉」(慶子) 昔から「学校へ来ない少…

木魚歳時記 第3264話

「今日のことば」 「こうなれば、もう誰も 哂(わら)うものはない。」 内共は心の中で呟いた。 長い鼻をあけ方の秋風にぶらつかせながら。 (芥川竜之介『鼻』)抄19 おわり 「ボクの細道」好きな俳句(1015) 藺草慶子さん。「鶏小屋の近くに吊す水着かな…

木魚歳時記 第3263話

「今日のことば」 内共は慌てて 鼻へ手をやった。 手に触るのは、昨夜の短い鼻ではない。 上唇の上から、 顎(あご)の下までの長い鼻である。 (芥川竜之介『鼻』)抄18 「ボクの細道」好きな俳句(1014) 大木あまりさん。「逝く猫に小さきハンカチ持たせ…

木魚歳時記 第3262話

「今日のことば」 翌朝、内共が眼をさますと、 庭は黄金を敷いたように明るい。 禅智内共は深々と息をすいこんだ。 ほとんだ、忘れようとしていた、 ある感覚が帰ってきたのは この時である。 (芥川竜之介『鼻』)抄17 「ボクの細道」好きな俳句(1013) 大…

木魚歳時記 第3261話

「今日のことば」 内共は、鼻の短くなったのが、 恨めしくなった。 するとある夜のことである。 寝つこうとしても寝つかれない。 ふと、鼻がむず痒(かゆ)いので 手をあてると、熱気がある。 (芥川竜之介『鼻』)抄16 「ボクの細道」好きな俳句(1012)。 …

木魚歳時記 第3260話

「今日のことば」 「人がその不幸を、 どうにかして、切り抜けると、 こんどは、(見ている)こちらが なんとなく物足らない心もちがする。」 その人に敵意すら抱く。 (芥川竜之介『鼻』)抄15 「ボクの細道」好きな俳句(1011) 大木あまりさん。「柿むい…

木魚歳時記 第3259話

「今日のことば」 「前にはあのように つけつけとは哂(わら)わなんだで。」 内共は、時々、呟(つぶや)くことがあった。 内共は、昔をしのび、 ふさぎこんでしまうのである。 (芥川竜之介『鼻』)抄14 「ボクの細道」好きな俳句(1010) 大木あまりさん…

木魚歳時記 第3258話

「今日のことば」 ところが、 意外な事実を発見した。(内共の鼻を見た者が) 前よりもいっそう可笑しそうな顔をして、 内共の鼻を眺めることである。 とうとうこらえかねて、 吹き出してしまったことすらある。 (芥川竜之介『鼻』)抄13 「ボクの細道」好…

木魚歳時記 第3257話

「今日のことば」 鼻は、あの顎(あご)の 下まで下がっていた鼻は、 今はわずかに上唇の上で 意気地なく残喘(ざんぜん)を 保っている。 内共は満足そうに眼を しばたたいた。 (芥川竜之介『鼻』)抄12 「ボクの細道」好きな俳句(1008) 大木あまりさん…

木魚歳時記 第3256話

「今日のことば」 「もう一度、これを茹(う)でればようござる。」 弟子が云う。 内共は、弟子の云うなりになっていた。 「もう一度、これを茹(う)でればようござる。」 (芥川竜之介『鼻』)抄11 「ボクの細道」好きな俳句(1007) 大木あまりさん。「秋…

木魚歳時記 第3255話

「今日のことば」 やがて、粟粒のようなものが、 できはじめ、鼻は、 毛をむしった小鳥を 丸灸(やき)したような形である。 「この毛をぬけということでござる。」 と弟子は云う。 (芥川竜之介『鼻』)抄10 「ボクの細道」好きな俳句(1006) 大木あまりさ…

木魚歳時記 第3254話

「今日のことば」 「痛うはござらぬかな」 弟子の僧は、内共の禿げ頭を 見下ろしながら、気の毒そうな顔をした。 「痛うはないて」 痛いよりもかえって気持ちのいいくらいだったのである。 (芥川竜之介『鼻』)抄9 「ボクの細道」好きな俳句(1005) 大木…

木魚歳時記 第3253話

「今日のことば」 鼻は湯気に蒸されて、 蚤(のみ)の食ったように むず痒い。 弟子の僧は、茹(う)だった 内共の鼻を両足で踏みはじめた。 (芥川竜之介『鼻』)抄8 「ボクの細道」好きな俳句(1004) 大木あまりさん。「寒風に売る金色の卵焼」(あまり…

木魚歳時記 第3252話

「今日のことば」 ただ、湯で鼻を茹(う)で、 人に踏ませると云う 極めて簡単なものであった。 しばらくすると 弟子の僧が云った。 「もう茹(う)だった 時分でござろう」 (芥川竜之介『鼻』)抄7 「ボクの細道」好きな俳句(1003) 大木あまりさん。「…