木魚歳時記

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木魚歳時記 第3891話

何人かは知らん。いや紀の二位ばかりは知るでもあろう。御白河院は生涯おん兄崇徳天皇をしたい奉り、むかしこの兄と鳥羽の田中殿に朝夕お互いにいつくしみの言葉を交わし、無言の間にも相通じた兄上の理解と紀の二位の愛情とに護り包まれていた天皇でもなく…

木魚歳時記 第3890話

しかし、この門院のご相談というのは、いつも名ばかりで、実は強制的な力のあるものではなかったから、四の宮はいつの間にやら、渦潮のなかに吸い込まれた小舟のようにみ位に立てられ、そうして心にもあらず、あの思いやり深い兄上を、仇も恨みもなくて敵に…

木魚歳時記 第3889話

しかし、わが子守仁を引き取り、養っていていただく以上は、門院の仰せを無下には退け奉ることもできないで退出した四の宮であった。(佐藤春夫『極楽から来た』)573 父さんと母さんが居て鱧の皮 鱧(はも) 「ボクの細道]好きな俳句(1638) 種田山頭火さ…

木魚歳時記 第3888話

(四) 歌い暮らして何不足ないその日ごろの境涯に満足し切っていた四の宮にとって、この相談はむしろ迷惑なものであった。 今まで見聞している九五の尊位というものは、決してただ今のような気楽なものではないらしい。凡庸(ぼんよう)なわが身ふぜいでは…

木魚歳時記 第3887話

身を責めることの多かった四の宮は、あるいはお叱りの事もやと、伺ってみると、夢にも思ってみたことのない皇位継承のご相談なのである。寝耳に水のお言葉に、新院との折り合いなども思い合わして、その場でははかばかしいお返事もできないで、「しばらく考…

木魚歳時記 第3886話

こんな危っかしいことをする人が門院のお気に入りで、わが身代わりに高野の兼海上人に仕えさせていた門院の猶子大納言のアジャリというのは、この成道の末子なのである。 近衛天皇がご年少のおん身で崩御のころは、折からよい師匠を見つけた四の宮は、歌の修…

木魚歳時記 第3885話

「とんでもないことをしでかすやつ」と、大のふきげんで、参籠して毎日こんあことをされてはとと参籠もとりやめて帰ったというが、当の成道は、 観音も知り見させ給へ をどり上がって鞠(まり)をあぐとも 落とすべしともおぼえざりけりと、これも得意の今様…

木魚歳時記 第3884話

勾欄(こうらん)に寄ってみると、同じことなら、この上で鞠(まり)を蹴ってみようと思い立ち、蹴鞠(けまり)の沓(くつ)のまま勾欄(こうらん)の上を、東から西へ、西から東へと立ち直って鞠(まり)を事もなげに蹴りあげつ二度渡った。参詣人四、五人…

木魚歳時記 第3883話

藤原成道は民部卿宗通の子であるが、千日欠かさず練習の結果、蹴鞠(けまり)の名人になった人であった。一日、父宗通の参籠(さんろう)のお共をして清水に参り、鞠(まり)を持ったまま仏前の一礼をすますと、舞台の勾欄(こうらん)を沓(くつ)のままで…

木魚歳時記 第3882話

美福門院は独裁的な気質、俗にいうかかあ天下的な一面とともに、こういう侠気(きょうき)もある女性であったから、主人のために身も世もあらぬ嘆いている朝子に同情し、これを助ける気にもなったのであろう。 この門院世に超異したおもしろい性格は、たぶん…

木魚歳時記 第3881話

四の宮が大納言経実の女懿子との間に一子守仁をひそかに設けた時、朝子は罪を一身の監督不行き届きに帰して、どう身を処しておわびを申し上げようか、とひたすらに嘆きわずらうそのふびんさを見かねた美福門院が、四の宮のためというよりは、紀の二位のため…

木魚歳時記 第3880話

(三)紀の二位朝子は、もと待賢門院にお仕えして二の宮の乳母になったのだが、その純情可憐に美しい人がらは、後宮の複雑な勢力争いの間にあっても、何人にも憎まれることがなかったのでも知られる。(佐藤春夫『極楽から来た』)564 和尚さてつかみ損ねし…

木魚歳時記 第3879話

朝子は紀州田辺(たなべ)の産で、熊野三山別当の女というが、やや色黒であったが眉目みくからず、何よりも心利いて、ごく率直に親切第一の主人思いの女人であった。 それ故、人々がとかく重んじない四の宮を心やさしいお方とあがめ、敬いいとおしみ奉り、わ…

木魚歳時記 第3878話

そのため、同好の友人仲間の歌い相手には不自由はしなかったが、歌がだんだん我流になってしまうように思えて、時々はほんとうの上手と歌いたいのに、その歌い相手に事を欠く始末であった。 この嘆きを乳母の朝子にうち明けると朝子は奔走し、つてを求めて目…

木魚歳時記 第3877話

新院はお気づきの様子であったが、格別やかましくお禁じにもならないのを幸い、この時も一月あまり歌い明かしたものであった。このころ困ったことといえば、遊女くぐつ女(め)などのなかには用もない遠慮をして、 「わたしどもは新院の御所ではもったいなく…

木魚歳時記 第3876話

新院のありがたい心づかいを喜んだ四の宮はその時おん兄と鳥羽の田中殿に行って住んだ。兄上の手前をはばかりながらも、ちょうど歌の修行に油の乗り切った最中でもあり、歌い暮らす生活はやめられず、晩春首夏の好季の夕暮れに乗じて田中殿を抜け出し、同じ…

木魚歳時記 第3875話

新院は弟を理解し同情した。しかし、人々が放蕩(ほうとう)と呼ぶそんな生活が、弟の身を毒し、やがて破壊にみちびくのを恐れた。 あたかもご兄弟のおん母がおなくなりになって、ご兄弟が同じ悲しみを分け合っている時機に、兄新院は十年ばかり年下の弟を誘…

木魚歳時記 第3874話

朝晩ひとり歌い暮らしつつ十二、三になっていたが、十五のころには本式に歌う志を立て、その後は遊女や、くぐつ女(め)、さては専門の歌い手などを歌い相手として自由に楽しく交友した。 格式ばらない庶民の自由さ、庶民生活の情愛ゆたかな楽しさをほんとう…

木魚歳時記 第3873話

(二)おん母待賢門院の寵はもはや美福門院にうつっていた関係もあり、また四の宮のこととして、少年時代はうち捨てられた境涯で、専ら乳母お二の位の手に委ねられた。 歌わずに居れないさびしさに、偶然にも生涯の守り本尊となった歌菩薩に奉仕しはじめたの…

木魚歳時記 第3872話

上皇は震怒遊ばされ、清盛に命じて経宗、惟方二人を禁中にからめ捕えさせ、経宗を阿波、惟方を長門国へ流した。永暦元年三月、乱後、百年も経たない時であった。 上皇が震怒あらせられたのも道理。深く庶民を愛し、庶民の生活にあこがれた上皇にとって、街の…

木魚歳時記 第3871話

それ故、乱後、経宗、惟方は天皇の威をかりて上皇を政治に関与し奉らしめず、専ら天皇の親政を策して、上皇をひところ藤原顕長(あきなが)の八条河原の邸に幽し奉った。 上皇は顕長の邸にあって、たまたまその邸にあった桟敷から日夜、往来の人々をご覧にな…

木魚歳時記 第3870話

院庁の大手腕家たる信西を除かない限りは院政を廃することができない。院政を廃しない限りは、天皇のご親政は到底望めない。こう考えた経宗、惟方二人の曲者どもは、おっちょこちょいの信頼と人のいい義朝とを先ず籠絡(ろうらく)して信西を殺させ、信西が…

木魚歳時記 第3869話

そこでこの二人の曲者たちは、天皇の側近の臣となったのを幸いに、心を併せて天皇親政が朝家永年の理想であることをこの少年の天皇に吹き込み奉り、彼ら自身更に一層の権勢をふるわんための野望から、天皇のご親政を希望し、もったいなくも後白河上皇を目の…

木魚歳時記 第3868話

信頼も義朝も実はふたりとも操り人形なので、これを巧みににも残酷に操った者は、はじめは信頼方に、後には清盛の方人(かたうど)としてご潜幸につとめた天皇の側近で大納言藤原経宗と検非違使別当藤原惟方という大の曲者どもである。 そもそも二条天皇のお…

木魚歳時記 第3867話

平治の乱は普通、信頼と義朝が相謀って少納言入道信西を排斥するために起こったものようにいわれ、表面は全くその通りに違いないが、さらに深くこれを探ってみると、真実はまことに思いがけないところに見出される。(佐藤春夫『極楽から来た』)551 青鷺が…

木魚歳時記 第3866話

第十二章 後白河院(一)平治の乱の経緯はおよそ前に記したごとくである。保元の乱は武家を社会の上流に押し上げたが、平治の乱は年久しく対立していた武家、源氏の二氏のうち源氏を一挙に滅ばして、武家はを代表とする平氏の独壇場となった。 しかし、これ…

木魚歳時記 第3865話

下野はきのかみとこそ成りにけりよしともと見えぬかけつかさかな という落首を書きつけた者があった。きのかみは紀の守と木の上とをかけたのはいうまでもない。かけつかさ(掛司)な任官の意である。こんな歌としてはまことにそつのないでき栄えと評判が高く…

木魚歳時記 第3864話

途中、十三歳の頼朝は朝からの合戦の疲れに馬上で居眠りが出て一行に遅れること二度、はじめは捜し出したが二度目はついに見つからない。 義平を飛騨に、朝長を信濃にやって甲斐信濃の一族に連絡させたが、途中の雪に朝長の傷は悪化した。義朝はこれを自刃せ…

木魚歳時記 第3863話

経宗、惟方は信頼から清盛にかわり、主上潜幸の功によって罪は許された。 義朝は主従、わずかに三十騎ほどになり、馬にも乗らずに叡山を越え、再起を期して東国へ急ぐ。叡山では落ち武者の物の具をねらって強盗化した僧兵の叔父を討たれ、次男朝長は太腿に矢…

木魚歳時記 第3862話

源氏の軍は鴨川河原を西に退いたままついえ去り、二十六日朝からの合戦も夕刻に終わった。 日本第一の不覚人は、上皇にすがって清盛に一蹴され、更に重盛にすがったが河原に斬られ、兄弟も子もみな解官断罪された。 一味の成親は捕らわれたが、妹が重盛の妻…